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短篇
剥き出し-3
「別に俺達だって」「完全に裸って訳じゃないんだぜ?」

どうして聞いてから二秒で看破出来る嘘を平然と二人して猫も犬も吐き出す事が出来るのだろうか。眉間に皺がぎゅっと寄るのが分かる。
何を隠そう椅子に乗っているその膨らみは何だ。視線を向けている間にも、猫人は腰に提げていたポーチを指差した。そこでやっと青年は、毛並みの色と合わせたポーチに気が付いた。

「真っ裸だったらお金だって持てないからね。最近の流行りはこんな風にポーチと毛の色を合わせる感じだから、お金が居る場所だって普通に使う事が出来るのさ」
「やっぱりまだまだ誤解してる人間が多いとは思うが、とりあえず俺達だって完全にマッパを決めてる訳じゃねえって……さっきも言っちまったな。もっと話が聞きてえのなら、この外でな?」

名札を首から提げている、同じく全裸の山羊人の司書が青年達の事をじいっと眺めている事にそこで気が付いた。本来図書館は読書をする為の場所である。勉学の場としてはお目こぼし。
三人仲良く並んで会話をする場所では無い。ましてや偶然同じ本を読もうとした事が切っ掛けで出会った名前も何も知らない裸の獣人の事だなんて。
顎でしゃくり上げて、もっと犬人側としては会話を続けておきたい気持ちであるらしい。猫人も本は借りれば良いから、等といった言葉を元にして話に合わせるのも乗り気であるらしい。

「……じゃ、えーっと……じゃあ……」

つまりは青年だけの問題であるのだと理解した上で、どうするべきか人間はちょっとだけ迷った。
どうせ暇なのだ。それ以前に獣人がどうして裸であるのか、人間側の考察や過去に決まった法律の類ではない、生身の裸の生々しめの獣人達によって話が出来る貴重な機会であったりするのだ。
少しだけ考えた後で。こうして獣人達とまともに話せたのも、そう言えば初めてであったかもしれない事にやっと気が付いてから。気が付けば獣人達と並んで、三人仲良く外に出てしまっていた。当然話を聞く為に。

「話を聞いてくれるなんて物好きな人間なんだね」「本当それな」
「えっ?」

そっちから呼んだのに、と思ったけれど、適当に歩いて見付けた自動販売機から缶コーヒーを一本だけ奢って貰った。
猫人の尻から伸びるしなやかな尻尾も、犬人の短めな尻尾が動く後ろ姿がはっきりと見えたが、やはり全裸にしか見えない。正確には全裸で何かのポーチを腰当たりに巻き付けている。
どっちにしても人間でやるのであればアウトじゃないかな、と素直に思う。自分が物好きかどうかなどそんな様子に比べたら些細なものだ。

「こんな風について来てくれる程こっちの裸に興味があるんじゃないかって思ってね」「やっぱりお前脱ぎたいんじゃ」
「だから、違いますって……!」

苦笑いを浮かべながらも引いてくれない辺りどんなテンションを保っているのかも知れない。
何よりもどうなってしまいたいのか、一番分からないのは青年本人であるのかもしれないから。
やっている間に犬人が金属製の柵に片足を掲げる姿を、どうやら見せられているらしい。まだ何も露出していない鞘と、体格の通りに猫人よりもふてぶてしい存在感を示す玉袋が揺れるのが見えた。
不思議な程に顔が赤らむのが分かる。

「ほれ」「え、な、え、何ですか?」
「足の方だよ……あんまり気になっちゃうのも分かるけどね、そこまでずっと見られるとこっちだってね、色々困っちゃうよ?」

柔らかく窘められながら、改めて犬人の足の方を見る。三本目になりそうだとかいう奇妙なジョークを頭の中で振り払って、確かにそれは足だった。
よく見ると肉球ではなく、サンダルを履いている様に見える。今までずっと両足も素足で土足で良いのだろうかと思っていたが、きっちりと履いていた訳である。
穿いてないけど。

「流石にカンカン照りのアスファルトの上を裸足で歩こうとはしねえよ…蜥蜴人とかだったら普通に走るけどな」
「まあ、そう言う感じで僕達も必要最低限でこんな格好をしてるだけで、別に完全に裸って訳じゃないからね……人間の道理があるのと同じで、こっちだって色々やってるんだよ」
「……は、はあ…ひゃっ……!」

犬人の足に気を取られている内に、いつの間にか猫人に背後から首筋の匂いを嗅ぎ取られている。すん、と小さく鼻すら鳴らして。

「……良い匂いだ。もっと知りたいんだったら、僕達みたいなののたまり場に来てみると……もっと色々教えてあげられるし」

君だって脱げるよ。そんな言葉を言い放ってから、示し合わせた様に二人は去って行った。

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あきゅろす。
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