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短篇
剥き出し-2
どの本にも透明なカバーが取り付けられているし、机の傍らには羽ぼうきが用意されていた。消しゴムの塵の他に開いている本に挟まる獣人の体毛を取り払う為の道具であるとは分かっている。
それでも毛が挟まっていたりするもので、どうしても青年の苛立ちは収まらない。早速集中出来ていないじゃないか、といった頭の中の声だって強まる。勉強の為に来たのではなく気晴らしだったら問題無いだろう。
既にずれているんじゃないか、といった言葉を何度か繰り返していく内に頭の中の方がすっかりうるさくなったもので、結局このままでは本末転倒ではないか。

図書館に勉強のついでに本を読みに来たんだ、毎日スマートフォンを弄りっぱなしの一日だったらそっちの方がおかしくなるからだ。
考えている間にも視界の端に映っている丸裸の獣人をなるべく見ない様にしながら、早々に勉強、の準備の段階から切り上げて、読みたかった本、適当な見知った作家の短編集へと手を伸ばし、

「うおっと、ごめん」「よあぁっ……!?…」

思わず叫んでしまったと同時に、偶然同じ本を手に取ろうとしていた相手の頭の上では、両耳がぴくりと動く様子が際立って良く見える。頭の上で毛並みで顔には髭で目には縦に裂けた瞳孔だ。
その恰好と毛並みと全裸と筋肉と股間にぶら下がっている玉袋が示す通りに、青年の隣に現れたのは猫人の全裸だった。違った、猫人で全裸の獣人だった。
耳の先と両手足が黒ずんでいて、胸元にはふっくらとした鬣状の毛並みに覆われている。青年よりも背丈はやや高い程度であるが、全身には引き締まった筋肉に覆われているのが分かる。のもどうでも良い。
周りにも当然ながら獣人ばかりであったりして、視線が集められているのだと知って申し訳なさそうな表情を浮かべながらそそくさと立ち去る為に踵を返そうとした所で、

「おっと、失礼」「ぬうむっ!?」

またしても、今度はもふっとした毛並みの感触によってこれまた背後で猫人の耳がぴんと立ち上がった事までは流石に見えはしない。咄嗟に身体を引いてみればそこには頭の上で耳をぴこぴこと動かしている全裸で犬人で獣人の男性だった。
全身は青みがかった灰色の毛並みと腹側にはベージュ色の毛並みで覆われていて、青年よりも頭二つ半程は大きな体躯。全身の毛足は短く刈り込んでいる様で、筋肉が充填されたかの様な体躯も、どっしりとした印象がある股間の袋も全てが剥き出し、

「あっ、ごめんなさっ、すいませっ……」

二回連続での獣人の衝突、周りの視線やら申し訳なさやらほんのりと触れた毛並みの感触であったりとか。頭がいっぱいになっている時に限っての苦悩の連続に、その場で小さく叫びながらその場を離れていくしかない。
何かもう今日は時期が悪い。こんな日が悪い。そうとしか言えないくらいの失敗と失敗を繰り返して来たものだからもういい加減に姿態のは人間側の方である。考えを巡らせていきながら、ぐっとその場から離れるしかなかった。
一旦図書室の外に出て、鞄も鞄の中身も全て置きっぱなしにしていた事を数分経って落ち着いてから思い出す。スマートフォンは手元にあるから問題は無い。いや、それにしても取っていかなければならないだろう。

落ち着く為にトイレで手を洗う。入念に乾かしてから再び図書館の中へと赴いてみると。

「ああ、やっぱり戻って来たんだな」「この鞄とこのノートとか全部お前のだろ?安心しろって、何にもパクっちゃいねえから」

そこには当然の様に先程手がぶつかった猫人が居て、青年が座っていた席を空けて胸元にぶつかった犬人が待ち構えていた訳である。
椅子にもカバーが敷かれていて、これもまた体毛防止で静電気が発生しにくい様な加工が施されているらしい。

「……あの、本当にすいません……色々考えてるって言うか、本当に……その、貴方達が悪いとかじゃなくて……」
「別に大丈夫だよ、人間相手にそんなやり取り、こっちだって意味が分からないって訳じゃないから」「全くだな。そんでお前、脱ぎたいのか?」
「ちが、違いますっ……ずっと全裸なのが……どうしても、気になって仕方ないってだけですよ……」

話を普通に聞いてくれる程には、どちらも良い人であるのに。
どうしても意識してしまうのは、犬猫両方共に足を開いて座り込んだ間で堂々と鎮座する、椅子の上に乗った睾丸であった。

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あきゅろす。
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