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短篇
剥き出し-1
結局は「毛皮の代替品が衣服であるのならば、獣人が衣服を身に纏う必要が無いのではないか」という理論が打ち立てられてもう百年以上の年月が経過していた。
実践されてからは、もう五十年くらいの時間が経過しているが、服を纏っている獣人が居ない訳ではない。例えば換毛期を迎えた後で急な気温の変化に遭った時であるとか。
肌が弱かったりだとか。一段と寒い日には勿論服を纏っている獣人の方が割合的には多いものである。その分裸を保つ獣人の姿が際立ってしまうものであるけれど。

「ああ、もう……本当に、もうっ……」

例えば朝にニュース番組をテレビで眺めたとして、天気予報のキャスターの隣を平然と全裸の獣人が通り過ぎる事も珍しくはない。
それどころかスタジオに居るアナウンサーだって全裸だったりする。全裸である。例えば女子アナの隣で普通に竿も玉も色んな所がぶるんぶるんと揺れ動くのが平然と見えるのである。
昼も同じ。夕方も同じ。そんなニュースの傍らには、時々にこんなニュースが挙げられる。「人間の露出魔を逮捕」と。
普通に見せているのに。普通に晒し出してしまっていたりするのに、獣人の裸は許されていて、人間の裸は許されないこのご時世であるらしい。

「本当にこんな町、早く出ていきたい……ああ……」

まだ学生の域を出ない一人の人間の男は、頭を抱えながらそんな事を呟いた。
父親の仕事の一環で中学を卒業したのを切っ掛けに引っ越す事になったのであったが、お隣さんに待ち受けていたのは全裸の虎人だった。
夫婦共々全裸でにこやかに迎え入れてくれた、あの縞模様とあの大きさを色々と忘れる事は出来ないだろう。今も窓の外から眺めてみれば庭いじりをしているのが見える。全裸で。

「結局は慣れだから仕方ないさ」と両親共々言ってくれているけど、そんな訳無いだろうがと声を大にして言いたくもなる。と言うか実際に言った。気が散ってしょうがないと。
「獣人に興奮する人間も人間に興奮する獣人だって少数派だから対丈夫だから」だとかそんな言葉で返されて、結局は種族の違いが問題であるのだろうと考えている。毛皮が生えて見えにくい獣人ならセーフ。色々剥き出しの人間ならばアウト。
なんて大雑把に物事が進んでいたのならば、こんなに自分が苦悩する暇も無い訳であったけれど。大学を何処にするか等と真面目に考えなければならない時間になる中でも、その青年には人間の友達しか居なかった。
その友達も幾らかは基本全裸の獣人と仲良くやれていたりして、考えれば考える程に着地点と気分がぐずぐずになっていく。

「……駄目だ、もう全然集中出来ない」

色々と大事な時期であるのに、何気なく付けているテレビであるとかその内容であるとか。結局深く考えてしまうのは自分のせいであるからこそ、一層集中出来ずにペンを投げる。
どうせ煩悩でも何でもないから捨て去る余裕も無いったら無い。巷で話されている通りに「人間だって裸でいさせろ」といった運動に加担するのも御免である。
自宅から出て、図書館でも行けばちょっとはましになってくれるだろうか。そんな考えが溢れている時点で集中出来る訳無いだろうよ、と人間自身が内心で思っているのも間違いなかったけれど。

「図書館だ、図書館に……うん、色々調べたい事だってあるんだ、図書館しかないんだ……」

適当にスマートフォンで最寄りの図書館を調べてから、勉強道具を抱えて鞄に放り込み、ついでに部屋着から着替える。こういったルーチンも合わせていた甲斐あって、やはり全裸の獣人に対する忌避感は消えない。
最近暑くなりつつある事もあって、自転車よりはバスを使った方が良いだろうと考えて実行する。ちょうど隣では鞄を持った全裸の馬人がやはり座り込んでいて、視線を向けるのも嫌になる。じっと見るのも、無理に外すのも意識してしまう事になるから。

「…………」

そして図書館に赴いてみたら司書もすれ違った客も、何なら仕切り付きの机越しに見えるのも全てが全裸の獣人ばかりだった。
何かが悪いとしたら、獣人の割合が他よりも多いとされるこの街。
または合わせられない青年自身だ。

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