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短篇
飛豚-7
大通りを進んで目的の場所に行ってみようとしたら、検閲が行なわれていた。実際は普通の車両に乗っている相手等市民しか居ないとの判断であ、道路ごと燃やされているのが目に入った。
小路に曲がってみて更に進んでみたら、踏んだ途端に炸裂する地雷がありったけに敷かれているのが目に入る。大通りから逃げようとしたものを確実に屠る為の造りを備えているとすれば、これもまたヒーロー側の仕業なのだろう。
また別の道へと逸れてみれば、路上に転がっていたのは裸で全員が膨れた腹を携えて転がされている市民の面々、恍惚の表情を浮かべているからヴィランも結構混ざってはいる。
男も女も老若男女もこうして孕んでいるかなと思ったが、僅かに腹部の奥に発光する何かが混ざっている以上これもまた爆弾なのだろう。助けに来た者達を狙って爆殺する造りになっている。

「この辺全部ヒーローの管轄って訳だな……まともに動けるヴィランがあんたしか居ないから当たり前か」
「……本当に、本当にどうなっているのか理解に苦しむよお……僕だってあんな事、ずっとやって来たのは間違いないのに……」

他人の手によってでも、複数人の手によってでもない。世界だ。世界そのものがミンサーのやる様な事を普通にやっていて、しかもそれが挨拶の様に他愛もない日常の中に紛れ込む様になった。三日足らずで。
自分と他人との差が無くなってしまった事が恐ろしいんではなく、その先が存在する事まで悪人としての考えが導いてしまっている。
一人二人はやったけれども、ざっと見ても三十人は下らない程には、無差別無作法無遠慮に他人の尊厳を砕き嬲る手法が出来上がっているのだから。

「良かったな、この辺入り組んでて。お陰で道には困らなそうだし、市民にちょっと近いと……」
「……強行突破になったとして、僕達に勝ち目ってあるのかい?」
「ヴィランだったら知ってるだろう。『バレなきゃいい』『気付かない方が悪い』『弱くなったお前より俺の方が弱い』」
「……え?今」

相変わらずバンダナを口元に巻き付けていた、しかし最初に出会った時とは柄が異なっている人間は突然に軽自動車のアクセルを踏み締める。バックミラー越しには市民が銃器を乱射しながら此方へと走ってきている。
その後ろではヒーロー達がドリルか蛸の触手にも似た暴力的なアタッチメントを装着したまま火花を道路に掠らせた先端から飛ばしつつ、背後から触れ合う市民を引き千切っていた。

一気に風の抵抗が強まる。車体が振動して、当然ながら人間よりも大柄で巨体で重たい体重を備えたミンサーの方に重心は偏っている。時々に片輪が浮き上がる感覚を持ちながら、側面から来る市民達を避ける度に身体は相応に揺れた。

「うぐっ、ぬぁぁうっ……ひ、一人ぐらい轢いたって文句は言わないよっ…!」
「ここで速度を落とす方がヤバいぜ?個人的に轢きたくないし、殺したとか死なせたで話が転がらないってのは嫌って程分かってるだろうっ」

何処となく楽し気な表情さえもその顔に浮かばせながら、一切ブレーキを踏む事無く、時に看板やら標識やら、それも死体が吊るされていると知れば小刻みにハンドルを切り替えて衝突を避けている。
こんなにも優しい相手がどうして自分に協力しているのか分からなくなってしまう程には。
コントロールセンター候補である電波塔へと辿り着く。これでもしも外れていたならば無駄死にで、この世界はヴィランの居ない平和で争い合う世界へと化すだろう。

明らかに車止めやら車両侵入禁止の内側へと入り込んでいるがどうでも良い。即座に助手席から扉を開いた所で、人間は首元に掛けていた懐中時計を外してミンサーへと押し付ける。

「こっちはちょっと急用が出来た、いざって時にはこれを頼むぜ」
「急用……こんな時に急用っ」「安心しなよ必ず合流する、また後でな!管制室で名前教えてやるよ!」

ミンサーが引き留めるのも一切気にしないままに、人間はドアを開けるとあっさりと走り抜けていく。まだバックミラー越しに武器を抱えた誰かが見えている状態なのに。
協力してくれると思ったらこれだ。彼は何であるのか。疑問は多々存在するが、そんな時は本来の目的を忘れない。忘れるべきではない。ヴィランである割には、決意を込めるのも何とも奇妙な話である。
念願の混沌ではないか。世界がぐちゃぐちゃになれば良いと前から思っていたではないか。まさしく望んだ通りの光景がそこら中に広がっているではないかと、以前の様なワクワクとした楽しさが再燃を始める。

「……ぶへへ」

小さく昔らしく笑いながら、自動ドアを破って内側に仕込まれていた火炎を浴びる。
分厚い脂肪が僅かに焦げた。体力と耐久力あってこその特殊なヴィラン。もったりと歩きながら、エレベーターへと向かって…まだ通電しているのにまた笑う。
こんな時に限って嫌に上手くいくではないかと思いながら。

「…………」

そんな笑顔が途切れたのも、予想が的中した管制塔の中を見た時だった。
中にはヒーローが居た。
確実に自分自身の手で命を絶ったヒーローだった。

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