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短篇
飛豚-6
雑に身体を強力なグラインダーやハンマーを使って砕く事もあれば、薬剤を用いて決して気絶させない様にしてからメス一本でゆっくりと時間をかけて分解する事もある。
趣味の悪さと合わさっての経験を重ねるにつれて、ミンサーは第4世代以降の肉体改造処置が施されたヒーロー全員の脳内にチップが埋め込まれてある事に気が付いた。
その筋の技術者に聞いてみた結果、ハッキング阻止を含めて複雑化する部品の処理をヒーローの脳内だけでなくチップを通してコントロールセンター然り、人工衛星なりで制御しているのではないか、との予想が返って来た。

「今のトレンドはおよそ4.5、そして第5世代に試験的導入が始まってる……そんなサイボーグ・タイプのヒーローを、全員手玉に取れるとしたら……」
「良いねえ、実に悪らしい。そのセンターなり人工衛星をコントロールする場所は?」
「……大体の当たりは付いているけど、都市部だ。それも一番ヒーローが混ざってて、一番ヴィランが潜んでいて……」
『続いてのニュースです。残存するヴィランを食用昆虫の苗床に仕立て上げる農場が本日オープン致しました』

目元から透明な幼虫を噴き出させている拘束された大柄な熊人の姿に小さく身震いしながら、ミンサーは更に言葉を続ける。単純な恐怖ではない。あのヴィランがスタンダードで、市民もヒーローも自分の敵。
まだ三日と経っていないのにこうも動きが速やか過ぎるものであり、切り貼りした映像も無く今やヴィランが最底辺になってしまったと、その中でも自分が一番下の下だとはっきりと理解が行く。
気持ち悪いのだ。怖気が走るのだ。吐き気が止まらないのだ。自分も似た様な事を散々やって来ていた癖に、周りがそれ以上を容易く越えて来ているのだ。

「都市部ってあそこか。普通に急ピッチで畑とか出来るもんなんだな、内容はともかく」
「…………」
『先程入りましたニュースです。「ヴィランの肉を食った虫なんぞ食っていられるか」との意見の下募った市民の手により、中継を繋いでいたヴィランを利用した食用昆虫農場が襲撃されました』

燃え盛る農場。焼け焦げる虫の匂いを思い出す様でこれまた小さくミンサーは身震いするしかない。やがて空中に迫る影は、飛行機能を備えたヒーローが数名。
慌てて重火器を空中へと構える市民達も、生焼けのまま地べたに転がされているヴィランも、即座にミサイル射出の準備に勤しむリポーターも、ばら撒かれた科学兵器によって溶かされて行く。
当然ながらヴィランが存在出来る余地など有りはしない。強酸でも使っているのか、皮膚と骨がぐずぐずになった赤いドロドロの塊になった姿を映像越しに見届けて、また吐き気が湧き上がる。

『全滅を機に今後ともヒーロー並びにヴィランを積極的に撃滅する事を当局は改めて表明致します。続いてのニュースです……』
「ああいう場所に飛び込むんだな。思ったより僻地に住んでたんだなアンタ。軽自動車にもカーナビ付いてないし」
「……くそっ……何だよう、こんな気分……全然楽しくないのに、わざわざ都市部まで行くなんて危険な事を…」

相変わらず人間はバンダナの裏側で笑っている様だった。
楽しまなければ損とでも言っているかの様な表情と調子を崩さないままに、弱音を吐き出してしまったミンサーへと口を開く。
言い放ってしまった後で気が付いてしまう程に、精神面が揺れて、崩れて、世界という現状そのものにすり潰されかかっている肥え太った豚人に。

「俺だって結構恐ろしいね。でも今の所この世界上に存在する、変わる前だったヴィランはこの世界でたった一人のアンタだけになってるんだ」
「……それは」
「所が寝床と飯を用意してくれたんだから、俺はお前がろくでもない奴だって知っていながらも恩を感じる。愛がある。だから付き合うって言ってるんだ、世界の為に」
「……ろくでもない奴だなんて……僕だって君に対して思ってるよ……」

力なく笑いながら、気分がすっと楽になっている。
たった一人だけならばどうにもならないかもしれない、しかしながら二人ならば。
どちらも同じ感情を抱いているならばと、ヴィランらしくない調子でミンサーの表情がやっと砕けた。

「……で、君の名前は何だい?」「まだ教えない」

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