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短篇
サクサク-1
「だからそんなに身を寄せるなって……いい加減に服を買えよ」
「獣人向けの服の方が多いから仕方ないだろ……まだまだ見付かってないんだから……あー……」

何とも間の抜けた声を溢れさせながら、今日も友人である犬獣人の尻尾をその人間は弄っていた。ボリュームの溢れる尻尾をひざ掛け代わりにして、両手で毛並みを梳く様に扱いている。
くすぐったい感触も慣れ切っているくらいの関係と交友を結んでいるもので、獣人と人間とが混在している大学の中はすっかり秋から冬へと変わる頃。獣人である彼の毛並みは冬外を纏ったばかりで、マックスなボリュームは人間を少しだけ昂らせる。

「それに元々服代も無いよ、自前の毛皮ぐらいちょっとぐらい貸しても良いだろ?」
「俺が普段どれだけ朝の手入れに時間を掛けてると思ってるんだ……この時期になると特に大変で、ふわぁぁ……」

言葉の通りに、犬獣人の服の胸元からは夏の頃に比べてずっと分厚い毛がこぼれていて、尻尾には少しの毛玉も残ってはいない。
大きく欠伸を浮かべているが、大体夏場より四十分程早起きしなければ毛並みの手入れすらままならないくらいには困っている。ざっくり切ったとしても、冬の寒さには耐えられない。
手入れが要らない人間に好き放題弄り回されるのはどうかという話にもなったが、人間は人間で見ての通り毛皮が存在しない。耳の裏側まで何も無いし、身体の一部にだけしか纏って居ないのも犬人からしたら極めて奇妙であった。

「そう言えばそうだけど…でも、今からバイトしても冬までに間に合うかな?」
「……だったら、あったかい場所でバイトするってのはどうだ?風呂場の清掃とか……」
「……風呂入れる訳じゃなくない?」「……屋外よりはマシじゃない?」

年末に向けての資金が欲しいのは常に思っている、暇はあるだけ楽しみたくなるのでこのままずっと過ごしたら大変な事になるのは想像に難くない。ベンチの上でお互い座りながら話を進めていく内に、何とも不穏な予感も漂って来る。
スマートフォンで近くで募集しているバイト内容を調べながら、話は次第にどの仕事が良いのか、何時間働いて幾ら稼げるのかといった話にシフトしていく。そうしなければただの夢物語になってしまうだろうから。

「……あー、此処とか良いんじゃない?温水プールの清掃だって」
「確かに悪くないんじゃない?それじゃあ頑張ってな」「……え?一緒に働いてくれるんじゃないのか?」
「……湿気が多い所だとこの毛並みが本っっっっっっ当に邪魔になるからな。だから頑張ってくれ。年末年始に何かバイト代で奢ってくれ」
「てめえ……」

苛立ちと勢いに任せてバイトを放り投げる事も出来たものであったが、冷静になって計算してみるとどう足掻いても年末を乗り切れない事がほぼほぼ確定しているのでバイトは募集する事になった。
電話越しの反応は良好なのは違いなく、冬毛に生え変わった前の獣人が今シーズンはいつも行きたがらなくなるから人間であっても、と好感触でもあった。日時を決めて面接、説明、とんとん拍子で話は進む。

「悪いねえ……此処のバイトの為に全身の毛を刈り上げる何てこと、普通の獣人は敬遠しちゃうからさ……」
「はあ……」

豚人のオーナーからの言葉にちょっとだけ残念な気分になりはしたものの、人間は本日から働く事になったのは全シーズン対応の温水プールの清掃。

「あ、そこの用具入れから聞こえてる音は気にしないで良いよ。いつもの事だから」
「……はぁぁぁぁっ!?イグ、もうイキますぅっ、あぁあぁぁぁ!?」
「…………」

漂っている臭気と合わせて、雄の何かが盛っている様に聞こえた。実際その通りであった。

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あきゅろす。
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