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短篇
こそだひ-9
必死で木屑をちり取りを使ってまで掻き集めていた猫人であったが、やがてげんなりとした表情をそのままにそっぽを向いてしまった。
あれだけの熱量を備えていた狼人の姿は今や影も形も無い。天井に垂れ下がっている肉塊にしても、床に残りっぱなしの触手の群れにしてもずるずると蠢きながら肉色にどす黒さが増している様な気もする。

「って言うか残ってるんだな……どうすんだよ、これ……」
「確かに、こんな部屋だったら誰も寄り付かないんだろうな……どうしよ……」

その通り満足して消え去ってしまった狼人を象っていたあの存在を他所に、部屋の上下から全面を覆い尽くしていた肉塊はこれでもかと残ってしまっているのである。
とりあえず、一段落する前に満足しきれていなかった猫人の肉竿を人間が鎮める事になった。触手が触れるヌルヌルした感触を味わいながら、結局お互いの尻孔の中へとお互いに射精を遂げる事になった。
きっちりとした後始末を行う前に緩やかな余韻に浸る事にして、浸っている間に何とも言えないくらいに眠気を覚える。ある種の連戦だったから当たり前であるだろう。

「どう……どうしよっかなぁ……色々されたこともあって、すっごい疲れてる……」
「寝ちゃおう。寝て起きてまだこの光景が残ってるのを認めてから後始末する事にしよう……」

最初に言い出したのが後始末を迎える前に眠り込んでしまいそうな猫人ではなく人間側である事が事の重要さを示してもいる。猫人も驚きながらも、尻穴から垂れる精液を舐め上げて丁寧に清めてやり、
次にはしなやかな身体を肉によって覆われたベッドの上に滑り込ませ、ぎゅっと身体を抱き締め合って眠る事にする。
狼人型の様にいつの間にか消えてくれやしないかと内心で二人とも思いながら。
即座に掃除出来る雰囲気でも無いし、固まりきった精液と饐えた匂いに塗れての掃除も悪くはないか、と二人して思ってもいた。

「……ああ、おはよ……えっ」
「……何ー?やっぱりどうしようもなくなっていたなら、まあ……もうちょっとだけ寝てからどうにかしよう、二人で」
「良いから起きてくれ……こうなるのは予想外だよ、流石に……」

面倒臭そうな調子を全身から放ってはいるが、人間が目を覚ましたのと合わせて起きてくれた猫人のありがたみもそれとして。
ぼんやりと半開きになっていた猫人が、予想通りに酷い事になっているのだろうなと想定した上で部屋の中に満ち溢れる触手と肉塊と精液に満ち溢れていた筈の光景は、全て消え去っているではないか。

その代わりの様に備わっていたのは、人間より頭一つ分程の高さをした一本の木であった。分厚く緑が濃い葉を備えており、破られていたらしい窓から吹く風に合わせて小さくざわめく音まで室内に響かせていた。

「……この俺の六桁の」
「やめとけ。木材だけ持って張り型頼んでも金は返って来ない……」

軽く食事を済ませてから二人して考えた。考えながら身体を改めて洗ってからまた考えた結果、一つの結論に達する事が出来た。
部屋の真ん中にこうして木が生えているのは邪魔なのだと。邪魔で仕方ないのだと。
当たり前と言えばそれまでであるが、狼人型の何かしらが宿っている以上は丁重に扱わなければならない気がした。それはそれとして邪魔だった。
枝をハンガー代わりに使えば多少はマシになるかもしれないという人間側の提案も断った。人間側が言い出した提案でも、軽い冗談で済ませろ、と猫人は芳しくない答えを返すしかなく。

場所と工事とに目途を立たせて、部屋から近い公園に木は植えられた。嘗ての争いも何もないその場所ですくすくと成長し、

「あそこまで育つのは予想外だったなあ……」「……これ、誰のせい?」
「…………さあ?」

ものの数年でそこらのビル以上に立派な存在感を示す大樹となった様子を窓越しに眺めながら、人間と猫人は小さく呟く。
見上げなければ天辺が見えない程の高さと化した木は、まるで人間達に優しく微笑みかけている様に荘厳な存在感を示していた。

【終】

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あきゅろす。
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