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短篇
こそだひ-4
突然に目の前が真っ白になってしまった、訳ではない。目を見開いている時も閉じた時も、やたらと赤色が目立った様な気がする。壮絶な音と壮絶な風。爆発でも起こったのだろうか。

「何……何が、起こったんだ?」「……知らないけど……あの張り型ぶっ壊れてないよな?六桁だぞ?六桁」
「…………あれ……いや、そんな事より」「無くしたのか?」「無くなってたんだよ、こんな状態で……」

気が付けば見慣れた部屋の中は毒々しい程に赤黒い肉色をした肉の塊が、何かの水生生物めいた触手があちこちから垂れ下がり、屹立し、うねっている姿がそこら中に見える様になっていた。
人間どころか猫人並みの体温を持ち合わせていてじっとりとした感触をこれでもかと返してきているのが分かる。あんまり分かりたくないのであったが、ここまでの面積を覆われているのはどうやっても無視出来ない。
あれだけ男二人で良い感じな雰囲気を抱かせようとしていた部屋の中が、天井から床、窓までびっしりと肉肉しい何かしらによって取り囲まれてしまっているのだから。

そして人間の手元には、先程までずっしりとした重量感と存在感と金額を感じさせていた張り型が消えてしまっていた。猫人からの指摘についても何も言い返せる事は無い。
代わりの様にその右手には、ずるずると動かす似合わせてへばりついていた触手が離れていく何とも言えない感触が残っている。

「何だよー、まだ一回も使わなかったのに」
「……そ、んな事より、まずはこのろくでもない奴からだろ……どうしてこうなったんだよ」
「知らないよ。知らないけど誰が張り型をなくしたのかは……」「だから俺じゃないって言ってんだ」

むがぁ、と音を立てて人間の口が塞がれてしまった。猫人の目の前で、ベッドの脇から伸ばされていた触手の先端が突っ込まれて行った姿。
咄嗟に猫人が手を伸ばして触手を引き抜いてやったかと思えば、ぬちゅ、と人間の精液が僅かに漏れている尻孔に触れられてびくっと露骨に大きな反応を見せてしまう。触れたのは当然、部屋中に蔓延る触手だった。

「な、ぶはっ……何が、あったんだっ…ふぁ、おいっ……!」
「ぐぅ…何があったんだって、俺が知る、かよぉっ……くっ……!」

精液を滲ませるお互いの竿をミミズ程に細い触手がやんわりと撫で回していきながら、猫人の胴体と両足にやたらと太い触手が絡みつき、宙に浮き上がっていく姿まで見える。
手を伸ばそうとして、伸ばした人間の腕にも螺旋を描く様に触手が絡みついた。気が付けば両足と胴体にも絡んでいる。ベッドに縫い留められながら両足を開かされてる人間と、天井から吊られている猫人と。
全裸になって卑猥な恰好を取らされて、おまけに熱い触手がこの上なく絡め取られて身体の動きを封じられてしまっている。何が起こっているのか判断する前に、人間達の視界の前、ベッドの上から肉が生えて来た。

『おおお……長らくの封印より目を覚ましたようだな……幾久しく感じ取れる雄の匂い……まだ、俺への拷問は終わっていない様だな……』
「…………伝説が本当だったのか?」
「……あの、もう終わってます。関係ありません。俺達ただセックスしてただけです……」

ぐちゃぐちゃと咀嚼にも似た音を立てながら、大雑把な肉の柱から掘り出される様に小さな肉塊を撒き散らしてその形が作り出されていく。
屈強な肉体からその臀部から生えている尻尾、尖った三角耳とイヌ科の獣人の様相を保っているのが目に入り、それが狼人であるのだとも人間も猫人も分かってしまう。
人間は種族ごとの外見から。猫人はオークションの出品者にあれだけ詳細に聞いた話からピンとくる。平均身長程度の体格を抜けない二人以上に立派で、肉で象られた身体は本来以上の重厚さを秘めている様でもあった。

『……何?わざわざ男同士で交わり合っている匂いをただ仲良く睦み合っていたとは言わせぬぞ』
「睦み合ってましたよ」
『……本当にそうなのか?』「本当です。お互いに突っ込み合うくらいには本当です」
『馬鹿、な……』

嘘偽りのない関係を語った途端に、狼人型の肉塊が周りの触手と合わせて動揺し始めた姿が見える。そこまで大変な事だったのかと思っている間に、ぐばあ、と音を立てて触手がやって来る。
口の付いた触手の内側にはびっしりと肉の粒が隆起している卑猥な姿と、そんな触手が大口を開きながら人間の竿を、合わせて猫人の竿をばくん、と包み込み、緩やかに吸い付きながら竿全体を肉粒で苛め始めた。

「っぎぃぃぃ、っ!!?」「ふがぁぁぁっ、な、なにすっ……!?」
『だから騙されぬぞッ!精力吸い尽くしてくれるわぁっ!』

目元に嵌まった青色の瞳は、触手以上に毒々しく見えていた。

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あきゅろす。
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