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短篇
こそだひ-1
年代的に言えば二百年前程の話である。とある国の下に、敵対国家の兵団長が捕虜として捕らえられてしまった。無辜の民数百人の命と引き換えともされていたが事実は定かではない。
兵団長たるその狼獣人は圧倒的な力と残酷さと決意の強さを秘めており、辛酸を通り越して釘表に顔面をすり下ろされるかの様な地獄を時々国内に齎していた。故に身柄が確保されてからは、処刑がさっさと決まっていた。
それもただ首を撥ねたり吊り上げたりするのではなく、敵国の士気をメッタクソに下げなければ気が収まらなかった。国王と拷問官との決意と会話の末に、雄としての尊前を奪う快楽処刑が施される事が決まった。
筈だった。

『雄であるこの俺の精神をそうそう容易く打ち砕けると思うなッ!この身がどうなろうと貴様等へと復讐してくれるわぁ!!』

牙を剥きながら吼えた兵団長に、最初に与えられたのは致死量一杯の媚薬と、何の変哲もない木製の張り型であったとされている。サイズとしては子供並みで、媚薬に浸かった身体では僅かな満足も得られないという代物であったとされる。
薬の効能によって蕩けた身体と尻尾と両手を鎖で吊られ、油をたっぷりと馴染ませた尻孔へと張り型が挿入された。そんな時であっても媚薬に狂った身体で喘ぎを溢れさせる事は無く、どこまでもけたたましい絶叫を上げるばかりであった。

そして張り型はそれ以降、狼人の身体から引き抜かれる事は無かった。より正確に言ってしまえば誰一人として引き抜く事が出来なくなってしまった、と伝えられている。
理由としては更に簡単な事で、狼人が何をやっても、文字通り苦痛を伴う拷問だろうが、快楽を与える刺激だろうと、本来であるならば人生を七回半終わらせる事も容易い筈の薬物と洗脳魔術の混合術式であったとしても。
決して尻の力を、緩めなかったとの話である。強引に引っ張り出そうとした拷問官の指を三本へし折った伝説まで残っているのだから、残されてしまっているのだからそれだけ凶悪なものだっただろう。

勿論国は困ってしまった。狼人として陰嚢から肉竿を纏めて甚振ろうともしたが、尻孔に力が籠め続けているからか、時間が経てば経つ程に硬さが比例して増していったとされる。
表面に薄く鉄板を張った革製の鞭であろうと、竿を穿つ為の鍼だろうと。それどころか睾丸を潰してやろうと振り下ろされた鉄製の槌が、打ち付けられたと同時に跳ね返り刑吏の額を打ち砕いたとまでされている。

『残念ながら緩め方から忘れてしまった様だぞッ!もうこの俺は止められぬ!この俺にも!』

国王は頭を抱えた。拷問官も頭を抱えた。その頃には全身が尻孔の締まりに呼応するかの様に悪鬼の如く堅さを手に入れており、乳首に鍼さえ通せなくなっていた。
やけくそになって本気で処刑をするにしても無駄となっていた。首を撥ねるにしても卓越した首周りの筋肉は斧をへし折る程であり、首を吊られようともそのまま爆睡する程に洗練されていた。
全ては尻孔の張り型が悪いのだ、と思ったまだ若い刑吏が尻孔に腕を突っ込もうとした所、右肩から先が丸々持っていかれたとまで言われていたのだから悍ましい話である。
形相までも顔全体に険しい皺が貼り付く程に変わり果てている始末で、正真正銘地獄より訪れた災厄を保ってすらいる様であった。マジでどうすれば良いんだよ、と国からも苦情が来ていた。

餓死する気配さえ見せないが為に、張り型が全ての悪さをしてるのだという事になった。破城槌さえも受け付けない程堅牢な尻孔をどうやって破れば良いのか、という話になった。
幾らかの手法を試した果てに、植物の操作を得意とする魔術師を呼び込み、強引に張り型を成長させて引き抜いてしまえばいいのだ、という結論に達した。
寧ろ様々な有用と思われていた手法が軒並み玉砕していったので、保留だった魔術師に頼らざるを得なかった。魔術師も大いに驚きながら険しい顔で魔法を掛けた。
だが、最悪の形で裏目に出る事になる。張り型は問題無く狼人の腸内で成長を遂げ、尻孔から枝が露出した途端に今まで体内で加わっていた力の均衡が崩れ去った。
当時の出来事はある貴族が残した詩にも記載されている。

『雷鳴の如き音、火山噴火の如き破壊』
『たった一本の男根擬きが、我らの全てを滅ぼしたのだ』

「……っていう伝説の張り型がコレなんだけど」「何で双頭になってんだ」
「片方は狼人の復讐心、もう片方は国を滅ぼした国王の未練が宿ってるってさ」
「……幾らした?」
「六桁」

無言でその人間は、同居人である猫人の額を弾いた。

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