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短篇
リターン魔-9
再来せし魔王が死んだと世界中に知れ渡ってから、どれだけの日数が経過したのだろうか。
二ヵ月足らずだ!!

魔王が死に絶え、側近がこの世界から消えてしまった様にぷっつりと情報が途切れてしまって、幹部の半分以上が倒されても尚戦乱と混乱は完全に収まってはいない。
そんな矢先に彼等はやって来た。まるで急に地面から湧き上がったかの様に唐突に、世界中へと現れた。

勇ましい戦士として刃が備わっていない鉄塊の様な大剣を振るい、数百の魔人を纏めて吹き飛ばした者が居た。天候を変える程の大魔法を乱射して戦乱を収めた者がいた。
公衆の面前で全裸にピアスのみを取り付けていたので、そのまま投獄された者がいた。「気に入った」と言うがままに王宮の中で王女の唇以上の物を奪おうとして投獄された者がいた。
しかしながら彼等の力が露わになるのはそれからになる。数日あれば十分過ぎて、圧倒的な力がそこにあった。武器があった。強力過ぎる魔法があった。

首をどれだけ堕とそうとしても無駄な事だった。一回落とされたのだからもう良いよね?と落とされたばかりの首が軽快な調子で言葉を紡ぎ、騒いだ矢先に仕事をこなそうとする。
時には良く分からないがやたらと強靭にくっ付く糊を物陰に隠れては持って来て、破壊された建物の復興に大いに貢献する事になった。
枯れ果てた井戸水の復興の為に、水が湧き出るまで土下座しながら頭を打ち付けた者もいた。その隣では焼かれた本の炭を残さず吸い尽くし、ほぼ全ての情報を復元した者までも存在していた。

焼け跡しか残っていない森に芽吹いた新芽をたった半日で巨大な木々へと姿を換え、美しい聖獣は煌めきながら今宵も空を走る。捕縛した魔人の改心と思わしき行動に誰もが震えながら手を取り合う。
超高速で叩き付けられる様な平和が近いのだと、誰もがそう理解しながら、彼等が魔界より訪れた正しい意味合いである魔人である事を。或いは「悪魔」と呼ばれる存在である事は、魔界に住み着く事になった彼等しか知らないのであった。

「全員上手い事やってくれている様で何よりですね…半分焼きを食べながらの酒も進むという物です」
「…………」
「どうしました?私達がこれだけの力を持っているというのに、どうして自分達の世界を助けているのか聞きたいみたいな顔をして」

普段の様に上半身裸にゆったりした下穿きのみを纏っている狼人型の隣には、魔界に連れ込まれてからなあなあで住み着いてしまっている元側近たちの姿。肩身は狭そうだが衣食住が分け与えられている現状、なあなあで過ごして今まで時間が経過している。
魔界基準で週に一度程の間隔で送られてくる報告書。時々精密な絵と合わせて書き記されている者もいる。全員が貴方達の仕えていた魔王を倒せなくはない、そのくらいの実力です、と軽い調子で語っていた割には規模が異常に巨大過ぎる気が。
その通り異質であった。魔王並みの力を持っているという割には、側近達が間近で見続けた魔王という存在は実に存在で暴君で、精力も活発で悪趣味で他人の地獄に愉悦を味わっているというもので。

そこまでの力を備えているというのに、平然と元の世界の社会に殉じ、略奪や陵辱、魔王が行なった様に妊婦の子供の改造等を一切やった気配もない。それが何処までも不可解であった。奇妙であった。

「やろうと思えば魔王の首を斬り落とす事も……全力と智略と油断を活かして上手い事をやって、運が良ければ出来うる可能性は少々存在するでしょう」
「呼んだ?」「ひゃあっ!?」

気が付くと傍らに魔王と名乗る存在が立っている。側近達は体格の割になんとも情けない声を溢れさせるが、狼人型は気にしない。

「こういう訳でもあります。基本的には粉微塵になっても死にはしないんですけど面倒だから、と……今の時代は二週半程回って、世界をよりよくするのに暴力を嫌う傾向となっていますので」
「そういう話なら前の魔王様からそんな感じだよ。勿論君達も力を振るわせる事もあるだろうけど、基本は生温くて面倒で、汗を掻くか頭を使うかの仕事が待っているからね」

魔王直々にそんな言葉が放たれたのならばもう何も言い返せはしない。側近達は舌を巻きながら、その次には魔界に感謝する。
好き放題魔王の傍らで肉欲に溺れられる日々も悪くは無かった、極上だった。そんな過去を完全に捨て去って、奇妙であるが魔界の生活が待ち構えているのだから。

「それが君達の子供の為にもなるからね」
「えっ?」
「ああ、最近違和感があったので診て貰った結果、私に三つ子が出来ているそうです…時期を見る限りは貴方達の子供ですので、どうぞよろしく」
「……えっ?」

魔人と呼ばれた獣人達に、悪魔と呼ばれる魔人の雄妻との、奇妙で異常な新生活が。

【終】

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あきゅろす。
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