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短篇
悪良丸硬-9
「うげぇ……っふ、く…ああぁっ……」

翌日にどうしても違和感が残りっぱなしだった腹に、トイレで思い切り下っ腹に力を加えてみたら汚物の代わりに大量の精液が出て来ていた。
ごぼぼっと音を立てて漂う匂いも濃厚、洋式トイレ内の水溜めの中まで真っ白に満たすくらいの大量の精液。これが残りのそのまた残りであるのだから昨日交わした行為の悍ましさをありありと理解出来る。
全くやる気が起きないというか下半身を中心として色付きの電流でも走り抜けてるんじゃないかという程には腰はばっきばき、洗ってくれたのに獣臭さは下半身からこってりと漂ってくれている。
忘れられもしない獣臭さ、狸人の匂いが肌と尻孔にずーっと染み付いているらしい。まだバイトも何も行なっていない、暇している時間帯だったので良かったけれど。

「…………」

良かった良くないか、というよりは狸人の第三の睾丸になってしまったかの様な、精液袋として腸内全体まで目一杯に扱われた末に。それから精液の放出が終わったのがざっと数十分。瘤が萎むまでまた数十分。
引き抜かれても精液が溢れ出る事はなく豚人のそれらしくがっちがちに固められてしまって、結局どうにか掻き出してから身体を清められた辺りで、人間は意識を失い、気が付けば自室へと戻っていた。まだ僅かに腹に感じた違和感に、トイレでいきんでみたらこの有り様であった。
別に良いとか悪いとかそういった感情が溢れる訳でもない。甘い倦怠感にまだ荷物も何も少ない自室の中、ぐったりとベッドの上で寝転がって一日を過ごすのも良いだろう。
今日もまたどこかに行こうとは思わないし、近場の飲食店やコンビニの位置も分かった。狸人のお陰で。そもそも金銭に余裕が無い。狸人のせいで。半日以上眠って既に夕方なのに疲れが取れてない。狸人のせいで。

「…………?」

その他の考えにおいて何か気になる点はあったかどうかと、考えている間にうつ伏せに寝そべっていた身体を起き上がらせる。腰がびりびりと甘く痺れて再び倒れ込む。
何の変哲もない自分の部屋の仲、特に変わった雰囲気は見られない。部屋の中に隠しカメラが仕掛けられていたりもしない。流石にそこまではないと信じたい。流石に。きっと。多分。

と、空腹の中で何気なく吐き出した息の中にもかすかな獣臭さを感じ取りながら、部屋の中まで獣の匂いが漂っているのではなくて人間自身から漂っている現実。いや、そういう事ではない。
きっちりと自室の鍵は施錠したのに、どうしてこの部屋の中に自分の身体が移動しているか、という話である。風呂場には体毛を生やした獣人用の石鹸とシャンプーが並んで置かれていたりして、尻孔に指どころか拳まで押し入って来た様な。
そうなると意識を失ってから自分の身体をわざわざ洗い清めて、髪まで乾かして、ない。手で触ってみたらばりばりしているし寝ぐせも酷い。そこまでは手が回らなかったらしいが、そこまでやってから自室へわざわざ運んだ。鍵を開けてまで。

「……マジか「おーい、もう起きたかー?」
「…………」

服も雑ではあるが昨日の衣服のままである事に気が付きながら、威勢のいいノックの音と共に鍵が開かれる音がする。
開いただけならばまだしもと思っている合間に、昨日嫌というほど甘く囁かれたり堂々と宣言されたりもした狸人が片手に掲げたビニール袋と共に、申し訳なさそうな苦笑と共に入り込んで来た。
片手には膨らんだ袋。そしてもう片方の手には鍵。

「おう、昨日はちょっと俺もヤリ過ぎちまったし色々迷惑掛けちまったからな。カップ麺とか缶詰とか色々買って来たぜ」
「……本当にくれるんだったら嬉しくはあるんですけど、さっきこっちの部屋の鍵、開けませんでしたか」
「ずーっと看れるくらい暇って訳じゃあねえからよ…大人しく寝かせとく内に、鍵も借りておいたぜ」

テーブルの上に袋と、確かに人間が持っていたこの部屋の鍵が置かれているのが目に入る。鍵も借りておいた。勝手に借りられた。

「どうして?」
「合鍵出来上がるのにも時間掛かるからよぉ…とりあえず腰も痛むんだろ、まずはマッサージからだなぁっ…ふへへ……」

どうして合鍵を無断で作るんですか、という言葉は、わし、と掴まれた腰の感触に放たれる前に途切れていき。
マッサージの極上さにお茶を濁されながら、狸人の手際の良さに少しは良いかなとまた思うのだった。

【終】

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