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短篇
サンドイッチ-4
動物園で見かける時と同じ風に、別に外には決して出ないし大人しくしているから何も問題は無いのだ、と。
ライオンも龍も基本的には全裸のまま、丸裸の格好を眠るときでも人間の目の前で晒してしまっているのが日常の光景になった。なっていた。なっていていいのだろうか、と風呂に浸かりながら考えた。
別に男である以上人間の方もそこまで気にしていないし、股間を隠すにしてもサイズが合う服というのが存在しなかったりしている。実際に試着して合わせられないのが厄介だ。
「布団だから」で納得している人間の方もちょっとばかりおかしいかもしれない。どっちでも良いと言ったら、ライオンも龍もまるで隠そうとしていないだけ。「だけ」で済ませる問題だろうか?

全身に纏っている毛皮と同じく、薄く短めの毛並みに包まれたライオンの睾丸に肉の鞘が股間でばっちりと存在を示している。といっても、直接触るだけでもないので、抱き締められても気にはならない。
龍の方はごっそり生やされた体毛と同じ様に、睾丸の中央から裏筋まで毛に包まれている様子が見て取れる。敷布団だからか毎回の様に眠る度に腰から尻にかけてだらりと垂れ下がる感触がしている。
「袋が当たってますよ」「だろうな」で終わってしまったが、それ以上に温かかったり、何気ない話に付き合ってくれたりしてくれるありがたさや心地良さの方が強いので、なんだか強引に押し込められた気が考えれば考える程強くもなる。
お陰で助かっているのだから、まあ問題は無い。全裸の感触よりも毛皮と体毛の温かさの方がほっこりして良い気持ちなのは、きっと何も違いないのだから。

「ふうぅぅ……」
「良い湯だったか?飯も出来てるぜ」「いつもの事ながら。ありがとうございます、毎日」
「折角こんな風に動ける様になったんですからね…冬場限りの仲ですし、これくらいはやらせて下さい」

風呂から上がってドライヤーで髪を乾かし終えた頃には、相変わらず全裸のライオンと龍人の形を象った布団達が出迎えてくれる。料理の匂いは今日も良い風味。
人間側から進めようとも水一滴たりとも摂取しないのも相変わらずで、食卓に着いている間代わりにじっとその姿を眺める。何気ない会話に付き合う。後片付けの後で水仕事をした両腕をドライヤーでしっかり乾かしている。
冬場限り、もっと正確に言えば春先までの辛抱、違う、冬用の布団はそれまで限りの仲だとは人間にもよく分かっていた。こんなに良くしてくれるとは思わなかった。
全裸のこんな姿になるとも思わなかったけど、便利さや温かさや心地良さの方が勝っているので問題は無い。

「んぎゅー……ぅ……?」

そう思っていたのも、昨日までの事だ。布団に凭れ掛かりながら、ライオンの身体に背中を預けながら龍が膝の上に寄り添っているという密着度と温度の高い体勢のまま、寝間着に着替えてだらけた時間を過ごしていたのに。
やはり気のせいではなく気になってしまう。人間から移ったものではない、獣の奥底よりふんわりと漂って来る独特の匂いがやって来る。ペットショップに充満している様な。動物園に強風が吹いた時めいた感覚を思い起こさせる。

「どうしました?チャンネルを変えた方が…」
「……やっぱり…こんな風に…匂います。こっちの匂いじゃなくて、貴方達から何とも言えない臭いが。しっかりと」

ちょうど目の前にあった龍の頭部の毛並みに鼻先を寄せて、鼻先に感じる気配がぐっと強まったのを証明しながらの言葉である。続けて後頭部を預けていた鬣にも触れる。
ものの数日でこんなに臭いが籠ってしまうものなのか、と内心で人間も驚いた面もあり、掃除機でもかけるか、消臭剤をぶっかけるのか、こんな人型のライオンと龍に。考えている間に、ぎゅ、と抱き締められる力が強まった。
ぐえ、と声が溢れそうになり、気が付いたら両膝も縫い留められて動かせなくなっている。苦しくない程度ではあるが、腕の力と獣の匂いをまた露骨に感じる事になる。

「ああ……すいませんね、どうしても全身を丸々濡らすのは苦手なものでして…手間暇は掛かりますけど、今日はしまってる布団を出しますか?」
「んだよぉ…別に臭過ぎて眠れないとかそんな訳じゃないんだったらいいじゃねえかよ……」
「いえ、そこまでは特に思ってはいないんですけど…明日、明日の日中にちゃんと身体を洗ってくれたら良いかなって事で何とかなりませんか?」

ライオンは地に足を着けた、或いは床にぴったりと全身を置いた物腰の堅さで風呂に入る代わりの案を言って来た。龍は素直に拗ねた。人間の脛を爪の先でかりかりと擦る。怪我しない程度の弱さで。
色んな感情が湧き上がって来ているし、ライオンと龍が一人ずつ日を分けても、と考えが浮かんだ。強いて言えば休日の内に片を付けたい案件でもあるので。
慰める体で龍の首元を擦りながらライオンに視線を向ける。椅子代わりに使っていた体勢の関係で首を曲げると結構な顔の割合が鬣に埋まる。

「そこまで言うのでしたら…分かりました。今夜はちょっと体勢を変えましょうか……」
「お気遣い感謝ですよ。こっちがマスクとか付けても別に大丈夫なんで……」

眠る前のだらけた時間が流れる通りに、普段の調子をそのままに人間はライオンと龍に話を続ける。それは何よりですね、とライオンは納得して、洗ったら片さないんだな、と龍は告げる。
本当に自分の布団だったとは思えないくらいの利口さだ。自分の家を乗っ取ったりする強盗ではないかと正直質問を普通に否定してくれた今でも思っていたが、それもまた杞憂であるらしかった。






「むぅぅ…ぐ……っ……ふ……ん、ん、んんーーー…っ」
「中々悪くない恰好ですね。そう思いませんか?」
「おっぐ……ほれぇ、こっち向いてちゃーんと感じてくれねえ、とな…へへ……」

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