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短篇
サンドイッチ-2
「……という訳で、どうして布団である貴方達が…いや、違うかな……自分が使っていた布団が、貴方達の様な姿になったのですか」

中途半端な時間に目が覚めても、現状は何も変わりはしなかった。ふんわりとした匂いの中に獣臭さとも言うべき奇妙なクセが混ざり始めていて、人間の身体は相変わらずもふもふの毛並みと肉体に挟み込まれていた。
合わせてライオンも龍も寝入っていたが、人間が目を覚ましてから示し合わせたかの様に目を覚ます。今回はどうにか二人の間から抜け出して、二人とも全裸である事がに気になりもしたが、食事を摂りながら問い掛ける事にした。

「といっても、俺達だってそこまで詳しい話を聞いている訳じゃあないからな…ただ俺達は間違いなくお前の布団だったのは何となく分かってるんだぜ?」
「そうですか…と言いたい所ですが、あんまり急な話とも思いますけども」
「しかし、布団という思いの都合上…貴方を寒い様な事にはさせない、それだけの事を思っていました……」

食事の用意は必要無いと言われた通りに、買い置きのカップラーメンを啜りながら、人間よりも大柄な獣人二人の話を聞くという特異な状態。
いやに冷静さを保っているのは、違った方法であったとしても共に眠り続けていた仲であったからなのかもしれない。今となっては布団とはかけ離れた存在であるけれど。

クッションの上にかっちりとした雰囲気で正座しているライオンの方は、鬣のふわふわとしたボリュームに表面に纏った筋肉の姿は毛皮越しにも細かな隆起が分かる程には雄々しいとも称すべき肉体をしている様に見える。
獰猛そうな獣の瞳に関しても野性味の溢れる姿に、きっちりした雰囲気はまさしく敷布団とも言うべき佇まいと言えるかもしれない。敷布団らしいライオンとは考える程よく分からない考えになるけれども。
筆の様に整った尻尾の先端は柔らかに揺れているのが見える。全裸であるが、股間には僅かに膨らみの隆起と鞘に隠れたままの股間が僅かに見えた。

「んで、俺が掛け布団なんだなこれが……とりあえずお前を押し潰してしまわない様にしながら、たっぷり気持ち良く眠れていたぜ?」
「……ええ、そうですね。重かったですけど、同じくらい気持ち良かったってのはありますね」

その隣ではフローリングの上に直接胡坐を掻いて座り込んでいる龍の姿。何かふわふわしている理由と、腕から見えるすべすべつるつる、もしくはがさがさな感触との矛盾は向き合って納得が行く。
尖った角が生えており、喋っている間にも口元から覗く牙はずらっと揃って鋭い様子。ライオンとは違って幾分か軽い調子なのは掛け布団であったからなのかもしれない。どうしてなのかは深く考える程釈然としないけれども。
その頭にはライオンの首周りを覆う鬣とは異なる意味合いでの鬣が黒々と艶めいている姿を見せ付けている様であり、同色の毛並みが鮮やかな緑と薄緑で分かれている肉体にもさもさと生やされてしまっていたのである。
顎の下の髭からライオンと同じくがっちりと鍛え抜かれた胸部から腋の下まで覆い尽くす様に。腹筋を縦に割ってそのままもしゃもしゃな陰毛にまで繋がっている様子がしっかりと見えている、見せ付けられている。

股間には当然膨らみまで備わっている様子で、布団にしては随分と毛深いな、と人間は他人事の様に思えるのである。布団にしては、ではなく、立派に生きている血潮は二度目までしてたっぷりと味わったというのに。

「こうなってしまったのは仕方ないので、今後ともよろしくお願い致しますね?」
「気持ちとかは分かるというか、変に納得してしまいますね…布団として?」「だって俺達布団だもん…こうなっちまったから、部屋の掃除とかはやれると思うけどよ…」
「食事についても問題無いんですよね?」「……ええ、普通の食事は必要ありませんのでね…」

一人暮らしが苦にならない性格と暮らしを行っていたが、こうなってしまったのならば、と変な安心感があるのは、やはり布団であったからなのかもしれない。
思った以上に飲み込めてしまっている。受け入れられる自信がある。布団の中の安らぎと安心感と極上というものは、これからもがっつりしっとりねっとりたっぷり味わって損はない。
同じ様に布団に関しても、実家から持って来た良い布団であった事を思い出した。だからなのか、と言われてもどうにも言えないが、この時期に新しい布団を買える程懐に余裕がある訳でもなかった。
夏場の布団は圧縮しているので、今更出す気にもなれなくて。

「じゃあ、今後ともよろしくお願いしますね……」

冬場じゃなくなったらどうしよう。圧縮しておくべきだろうか。
何気なく浮かんだ考えはしまっておく事にして、食事を終えた人間はとりあえずそう告げるのだった。

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あきゅろす。
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