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短篇
熱々の話5
こんな夏場であるというのに蜥蜴人の服装は、袖もズボンの裾も綺麗な長袖を保っている。
身体にぴったりと合っている様で筋肉の隆起が滑らかに盛り上がっているというのも、犬人との生活において見慣れた光景だ。

取り敢えずこんな物でも、と丁寧に盆の上へと差し出されたお茶と、常備しているらしい最寄りの洋菓子店製のビスケットを差し出された。
人間は遠慮するよりは全てを残すのがよろしくないと思っている身である為に早速手に取り始める。

「まさか来てくれるなんて、びっくりしましたよ。名前もきっと知らなかったでしょう?」
「んぐ……あ、すいません…あの時に聞いておけば良かったって思ってはいたんですけど、この部屋の番号は知らされていたんで……」
「それが無かったらこうして来れては無かった筈ですからね…本当に、寸での所でしたねえ」
「あ、の……」「どうしました?」

「いえその…近くありません、か?」

殆ど初対面、こうして会話をするにしてもきっちりとした部屋の中。
ローテーブルの上に差し出された茶菓子を食べていながら、蜥蜴人が何をやっていたのかというと。
楽しそうに話を行いながら、人間の身体に身を寄り添わせていた。
もっと具体的に言ってしまえば、胡坐を掻いた上にごくごく平然と人間の身体を乗せた上で、座椅子に重ねて座っていた。

「何分寒いというか、貴方に合わせてエアコンの温度を下げていますからね…このくらいは勘弁して欲しい、と思っていたのですが…」
「あ、えーっと……あの?」

確かに心地よく、漲る筋肉の感触が冷ややかに、殆ど室温の通りになって伝わって来るというのは悪い感触ではない。
故に最初に拒む事が出来なかったのは間違いなかったものであったが、少し馴れ馴れしいのではないか、とも思えている。
ティーカップではなく大き目のコップの中には氷が何個も浮かび、茶もビスケットも高貴な事この上ない。
少なくとも何かの記念日やコンビニスイーツで済ませている人間にとってはあまりにも甘露。

驚いている間にも、ぎゅ、と腹周りに絡んできた腕に力が込められている。
人間の熱によるものなのか大分熱を孕んだりはしていないが、身体が震え上がってしまうくらいにはひんやりとしていた。

「こうして、人が来るのも久し振りなんですよねえ…私に熱をくれませんかね……何も、悪くはしませんし……」
「っっっ……!あ、あの、おれ、俺って……」「知っていますよ…僅かに残る匂いも、服に絡んでいる体毛も……それに……」

貴方にそこまでの拒否権があるとは、誰も言っていないでしょう?
そこでやっと人間が色々と嵌められている以前に、あまりにも軽々と捉えられている事に気付いた。気付いてしまった。
それでも言葉は丁寧なままで体温は人間よりも低く、自分に向けられている熱気や劣情と言ったものが、あまりにも弱弱しいものだと今でも思えている。

「だ、駄目です…今の俺、こう……ヤバい日ですから…ぁ……?」
「大丈夫ですよ、貴方が熱くなる必要は何処にもないのですからね…全ての熱を、私に下さい……」

エアコンの駆動音、室外機の回転。音楽は何もないままに、触れる程に身体がひやりとする。
本気で奪い去られてしまうのではないかと感じ取ってしまう。口元に伸びて来た先端が二又に割れた舌は、氷が浮かぶ茶と同じくらいな冷たさがあった。
暴れる気力がどうか、と思っている間に、身体が部屋の片隅に敷かれていた布団、今でもふわふわな敷布団の上へと緩く押し倒される。

もどかしくてこそばゆい感覚がして堪らない。冷たい舌先が自分の口腔内で生暖かさを増していく。何処まで本気なのか分かりはしない。
分かりはしないのに、きっと自分は抱かれるのだと、そういう動きだと分かっているのに。抵抗が出来ない、身体が冷やされる様な気がする。

「っ…て、あ…マジの本気で……なんです、か……うっ……」
「人間の身体は体毛が無い分温度の伝わり方も好みですからね……貴方があの時話してくれて…良かった……」

ここまでされているのに、酷く身体が動かない。服を纏ったままでも密着は随分と強くて手慣れている。
気が付けば引き抜かれたベルトを使って両手首が縛り上げられていた。何も言わないままに身体が脱がされ、蜥蜴人もはだけて露わにした地肌、胸元を人間の胸と擦り付けていた。
鼓動を確かに感じる、こんなに冷たいのに。驚く間も何も無く、蜥蜴人は満足そうに鳴く。蜥蜴なのに。

「温かいのが好きなんですよ…ええ、貴方とだったら……」
「……い、や…俺には……あぁぁ…ぁ……」

股間に触れられてやっと危機感が芽生え、すぐに消え去るだろうなとも分かる。
長い爪が僅かに引っ掛かる様に股間へと触れて、脅しも合わせた刺激が竿に直接与えられ始めていたから

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あきゅろす。
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