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短篇
熱々の話4
休日の待ち合わせ、といっても犬人と人間がそういった仲である事は間違いない。犬人も人間以外の友達だっている。
知り合いと遊ぶと言えば大丈夫だろう、といった魂胆の下、何気ない話を続けていたのは既に寝室だ。
時刻的に言えば後は眠るばかりの時間であって。話し終えた次にはきっと眠る事になる。

「だからさ、えっと…別に暑苦しいとかからじゃないから、大丈夫だから……出かけている間に丸刈りになるとか、そういうのはやめてね…止めてね?」
「ああ、分かっている、分かっているさ……しかし……また目が覚めた時に、俺が…俺の身体がお前の嗅身体が汗だらけになるまで我慢出来なかったら……!」
「良いから、落ち着いて!俺だってお前の匂いとかモフモフとか、ずっと助かってるんだし……」
「…………」

ただ無言で身体を寄せようとしたが、首だけを伸ばして頭だけを擦り付ける。
身体を横に寝かせたまま揺れる尻尾がぱたぱたと冷感パッドの敷かれた布団の上を叩く。小気味良い音は変わらず心地良いもの。
犬人が嬉しいならば人間も嬉しい、逆もまたしかり。この夏場、残暑、高温な気候が終わったならばそれから先はずっとぎゅっとしてモフモフな生活が待っている。

それまでの辛抱だからと思いながら、いや、実際そうであるとは分かっているのは互いに分かっているのだが、

「……ぐへぇぇ……」

今宵もまた人間は、長らくの癖となっている様に自分に絡み付いている犬人の腕をそっと取り払い、
身体の前半分がきっちりと埋まる様に抱き締められたついでに、汗と蒸れた吐息に紛れた身体をそっと放した。
身体がひややかな蜥蜴人が羨ましいとかは思う事は無い。暑さがなくなればそれに越した事は無い。ワンシーズン。
それがどこまでも辛くての愛情と友情と、経験。今日もまた毛並みが冷えるまで離れてから、布団を挟んで密着をなるべく防ぐ。

自分の匂いをたっぷりと染み着けた布団だとかでは物足りないらしい。
仮に布団とは違った人間の匂いが染み着いている布類の類は日頃の行いと経験もあってか眠気以外の感情が湧いて来る。
人間は人間で、いつの間にやら犬人の匂いや気配が無い、一人で眠る時にしても何とも落ち着かなかったりしている。
どうにもならないな、と思いながら、汗だくになっては深夜帯に目が覚め、朝にシャワーを浴びてから犬人を引き留める。
念入りなブラッシングや、普段以上に定期的に毛並みを梳く事で毛並みを必死にどうにかしようとしているのは分かる。

その上でも人間が暑くて仕方ないのだから結局強引な手法を取ろうとして、人間が必死で止めているのもまた同じく。
ああ、分かっているのだ。ワンシーズンだけの問題というだけでは到底済んでいないから、打開策が何か必要であるという事に。
一番に最高で最悪な解決策が「犬人と人間が眠る時が離れる」というもので、どちらも自然と拒否しているからここまで話がこじれているのだと。



「おじゃましますぅぅぅああぁぁぁぁぁ」

一番近いと言った理由で、他の学生も頻繁に通っているアパートの一室。
入りたての部屋番号と郵便受けに掲げられた名前からやっと蜥蜴人の名前も分かり、呼び鈴を鳴らせば彼の声。
こざっぱりとしている一人用の部屋の中にはエアコンも常設されており、誰もが大体付けているので室外機の音は既に聞こえる。

扉を開きながら元気のいい声と共に人間が最初に浴びたのは、この上ない、部屋の中を掻き回している、
どこまでもどこまでも延々としか言い様の無い「ぬるさ」であった。犬人達の部屋よりも格段に気温が高い。
暑いか暑く無いかの瀬戸際だ。正直人間には厳しい。

「……ああ、すいませんね…温度、下げた方が良いですか?」
「っああ、別に良いですよ…良いですから!」
「お気遣い無く、久し振りのお客様ですからね……」

にっこりと牙を見せて笑う蜥蜴人にぞくっと、最初に犬人に出会った時の様な背筋の寒気を感じる。
あの時から行為を抱いていたりして、趣味やらが合う様に調節していて、といった具合であった。
まさかな、と思いながら人間は蜥蜴人の部屋へと上がり込んで行く。
ありふれた六畳一間の中は随分とすっきりしていたが、カーテンの素材も床に敷かれたカーペットも良い素材だと素足でも分かった。

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あきゅろす。
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