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短篇
熱々の話3
竜人や蜥蜴人といった体表に鱗を纏った種族は、暑さに強いが寒さに弱い、というのはこの世界の常識である。
しかしながら最近になっては普通に汗だくになっている竜人や冷房の効いた部屋の中にたむろする蜥蜴人等が珍しくはない。
理由は簡単「この暑さは種族がどうとかといったレベルの出来事ではない」のだと。そういう事で冷たい食事がこの食堂にも大人気であり、セルフサービスの水の中には誰も山程氷を入れているが。

「やっぱり気になってしまいますか…あ、別に気分が悪くなってるとかじゃないですよ、そんなに珍しい事じゃないので」
「へえぇ…やっぱり、この部屋とかは寒いんですか?」

毛皮を纏った獣人達と合わせて冷房はガンガンに効いている。人間からしても一枚ぐらいの上着が欲しい程度には。
だからといって例えば、コップの中に氷を入れなかったり、あえて温かいかけうどんを頼む様な度胸は人間には無かったりする。

「いえ、好きであるからなのと…私の体温、他の同種よりも低いらしいので…あんまり寒い所だと、凍えてしまうんですよ」

ついでに汗を掻く機能が薄れていたりする獣人、竜人達に関しては、人間である彼よりも体温調整がシビアであったりする。
犬獣人が舌を出して体温を調節する癖があるのと同じ様に、そして実際有効な方法であるのは犬だった頃から変わらない。
全く汗を掻かないというのも竜人や蜥蜴人の中には居るらしく、夏場の割に厚着をしているのも他ならぬそれであるからだろう。

と、言っている間に食事をしながら蜥蜴人が人間に向かって片手を伸ばして来た。仄かに煌めいている様な緑、もしくは翠色と行った鱗。
掌は綺麗に白っぽい色合いで、人間の手よりも遥かに巨大であるのは見るだけで分かっているものだ。
指も長さに合わせて随分と綺麗なものと見えたが、合わせて伸ばしてみると太さも段違いだ。そして触れてみると、

「わっ」

思わず声すら上がってしまったくらいに、ひんやり、とした感覚がした。
蜥蜴人が分かり切っている様に小さく笑い声を溢れさせて、咄嗟に離れてしまった片手が握り締められる。
ほんの緩い力で握られているとは感じるがぎゅっと全体を包まれる大きさは犬人との関係から分かっている。
それでも、人間の感じ取れる限りでは表面はきっと冷房と同じくらいには冷え切っていて、握り締められてやっとじんわりと体温が伝わって来る様な具合だった。

ぱっと離されてからでもそこまで身体の方は変わらない。
あまりの物理的な温度差に驚きながら、手を離した蜥蜴人が食事を再会する様子に慌ててうどんを啜り始める。
何気無く横に視線を向けてみたら、ゆったりと食べていたらしい蜥蜴人が何とも楽しそうに人間の昼食を見ていた。
結構な時間が経過しているのにまだ湯気が立ち上っている。

「……あ、の…どうしたんですか?」
「いえ、食べている姿が珍しいと思いましてね…私みたいな相手は、どうしても食事に時間が掛かってしまうもので……」
「はぁ…てっきりこっちの食べ物が少し欲しくなったのかなと……」

勿論犬人との生活を経ての経験に基づくものである。大柄な獣人の方が人間よりも良く食べたりもするものだから。
そう言う訳じゃないのだとはっきり答えられて少しだけ照れ臭い気分にもなって、自然と笑ってしまう。初めて出会う相手であるのに。

「ああ、ゆっくり食べるってのも良いかもですね…お昼休みはまだ長いですしね……」
「そうですか…では、話をしながら食べましょうか……」

犬人とのベッドタイムという何気ない悩みから気を紛れさせたかった気分も確かにあるもので、蜥蜴人との話は随分と話が進んだ。
人間がコップに入れていた氷が溶けてしまう程の時間を経て、いろんな話が分かっていた。
犬人と蜥蜴人とが同じ科目を選択していたり、年齢的には先輩に当たる事。バイトを数年ずっと続けていているが、遊び相手もそこまでいない事。
何故なのかと言えば、あまり激しい動きをするにも、室内にこもりっきりでも蜥蜴人の調節が気がかりだったり、こんな服装で遊ぶのも、といった何気ないずれからである事。

「だったら遊びに来てみても良いですかね…その、友達と一緒に……」
「それは何よりですが…まずは貴方一人を迎えてみたいのですが、どうでしょう?」
「あー……まあ、多分大丈夫、ですよ……」

犬人に言い聞かせて駄目だったら連絡をすると、電話番号まで交換してそこで別れた。
初めての出会い、吸い込まれる様な鱗の色合いにどうにも引っ張られているのか、既に待ち合わせが楽しみとなってもいた。

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