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短篇
熱々の話2
朝の内にシャワーを浴びてから下着を着替えるのも、これで何度目だっただろうか。
正直に言って面倒臭いと言えばそれまでで、風呂の掃除もついでにやっておこう、と思うのは人間本来のマメさ故か。

「……悪い…悪いとは思っているが、どうしてもっ………!」
「うん、大丈夫、大丈夫ったら大丈夫だから…早まらないで、お願い……」

冷水を浴びてすっきりした、ついでに頭の中までばっちりと目が覚めてしまって、水気を拭いながら目に出来るのはバリカンを持った犬人の姿。
既に電源を入れてあって激しい振動音を手から響かせ、パンツ一枚の犬人の姿となれば何をする気なのかも当然理解出来る。
本気で止めなければ本気で全身の毛を丸坊主にするまでバリカンで毛を狩り続けるだろう。
そこまで無骨なのにどうして離れられないのかとは、部屋が無いからと、犬人と人間との関係性が殆どだ。

「だから無理はしないで…作ってくれた朝食が冷める前に食べよう…ね?」
「っ…あぁ……悪い、すまない……だが……」

どうしても好きだから仕方ない所もあるだろう。といった言葉に、人間の顔はドライヤーの風以上に熱を増した。
秋口に掛けての肌寒さにおいてエアコンは電気代節約の為に使われないので、犬人の暖かさはありがたい。非常に。
冬場であったとしてもまた同じく、厚手の布団の中で包まれながら眠るのは熱い程には極上の暖房となっている。
徐々に温度が上がる春先においても。
問題となるのは湿気と蒸し暑さが物を言う梅雨時か、今の様にエアコンがやっと稼働している夏場だけの話だ。

「わ、分かってるって……だから、その…綺麗な毛並みを全部剃り上げるのは俺からしてもさ……だから、ね?」
「……あ、あぁ……気を付けよう……今度は温度を下げてみる、か…?」
「…………」

実に爽快な甘酸っぱさを感じているのも確かではあった。
問題としてはこのやり取りが最初では無い事だ。何回かやった末に、眠る前の温度設定は既に二十度前半が基準となっている。
このくらいだったら犬人が抱き着いても熱くはないだろうと考える。抱き着いたまま眠る。汗をかく。
互いの愛情を確認し合う事が出来て何とも嬉しさは有り得るのであったが、何回も続く末にエアコンの設定の方が音を上げる。

そうなったら人間の方が脱ぐか、犬人の方が剃るかのどちらかでしかなくなっているだろう。
早めの対策、対策をしなければと思いながら、結局言葉に嬉しさを感じて朝の支度に移るのであった。
それぞれ同じ大学に通っている男であり、同学年だが学科は異なる。今日は人間だけが必修科目があり、犬人は休みだ。

「…どうにかしないといけないん、だけどなあ……」

離れたり仕切りを用意すれば良いとの答えとは別、何か別ベクトルの答えを見つけるというのは相当に難しい。
まだまだエアコンの設定温度に余裕がある間にどうにかしなければならないとも感じ取りながら、朝食を済ませ、大学へと向かう。

自転車を使うのはあまりに暑過ぎるので、やはり電車を使う必要がある。見慣れた道、見慣れた学校。授業を受けて帰りは夕方。
昼食は学校内の食堂で済ませる。夏場になってから限定メニューに追加されたざるうどんばかりを食べている。
後は自販機の缶ジュースやら、足りないならばコンビニでの買い食いを講義が終わった後に。
周りの獣人にも汗だくだったり、毛皮がさっぱりしてたり、氷を必死で食べている者もいる。暑さは誰にも等しく、誰にだって辛い。

「ふう、来た来た……」
「…………?」

そんな気候にエアコンが利いている食堂なのに、隣の蜥蜴人は堂々と湯気が香り立つ親子丼を食べていた。
湯呑みには熱々のお茶まで注がれている。犬人並みに大柄で、長袖のカーディガンまで羽織っているではないか。
気掛かりだった。というか純粋な暑さを見るだけで思った。気になって見ている内に、人間の視線に気付いたように振り向き、にっこりと笑った。

「ああ、暑く見えましたか?大丈夫です、これは好きで食べてますので……」
「そう、なんですか…すいません、なんだか…珍しくて……」

見た目以上の凛とした態度に驚いた人間は、話している間に目を細めなければならない程の鱗の綺麗さに気が付いた。

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