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短篇
熱々の話1
「……ぬあぁぁぁぁっ」

今となってはすっかり慣れた、何回も起こったものなのか気になって仕方なくもあったが、今日も今日とて人間は深夜帯に思い切り敷布団の上から動かなければならなかった。
寝具として使っていた半袖のシャツと紐で留めるタイプの作務衣風ハーフパンツには各所に汗、そして毛並みが僅かに付着しているという事も分かる。
そろそろ買い替えようかなと思っていたがまだまだ使えるエアコンの稼働音、そしてすぴすぴと寝入っている不眠の元凶が人間の腰に今日も腕を絡ませているのだ。

勿論、咄嗟に叫びながら身体を動かしてどうにか柔らかい拘束から抜け出そうとしている間にも少しも眠りが浅くなる様子さえ見せていない。
そんな彼こそが全ての元凶だ。タンクトップにパンツ一枚というだらしのない格好ではあったが、全身に纏った毛皮のお陰でそこまでの露出している感覚は常夜灯が照らされる部屋の中でもそこまで見えない。
この犬獣人が。大柄で柔らかい金色の毛並みに全身を包み、一応冬場よりはカットされているが毛並み自体が二層あるとかなんとかで。
エアコンの冷気によって十分に楽し気に寝入っているが、そもそも犬獣人の体温と人間の体温とでは結構な差があり。

ついでにパンツ越しに股間に浮き上がっている膨らみというもののふてぶてしさが今でも少しばかり気になる関係でもあった。
人間の方の服に汗がにじんでいるくらいのレベルで、身体を強引に重ねる気にはならないものであったが。

「全く……やめておけ、って何度も言ったのに……」

ぶつくさと文句を言いながら、敷布団を通り越して寝室の縁まで弾き飛ばされた薄手の布団を拾い上げる。
そこまで洗ったという経験さえない。基本的には犬獣人が被って、纏めて覆われて、人間が寝苦しさから今日も蹴り出したという事だ。

それからまた悩む事になる。人間が寝直す事は簡単であったが、犬人は同じ布団で眠っていると寄って来る。抱き締めて来る。
そうなると夜明けを待つより先にまた寝苦しさから目を覚ます事になるだろう。
離れて眠るにしてもリビングのエアコンまで同時に稼働させるのは光熱費にはきついものがあり、目が覚めた時には何が起こるか。
犬人が凹んでしまう。その日一日尻尾が上がる事は無い様な事であり、無意識だから今日も駄目だったといった自分への卑下、全身の毛を今度こそ剃り上げようといった暴挙、慰める為にはさらにいくらかの手順が必要になる。
そうなってしまうと、人間が休まらない。汗だくのままじっくりと自分の腹部が膨らんでいくのを受け入れるしかなくなる。繋がったまま冷水を浴びせられる事もある。

なので人間が今の様に暑苦しさで目が覚めてしまった時には、籠った熱が冷めるまで一旦離れて台所で茶でも飲みながら過ごし、頃合いを見計らってまたベッドに沿う事がほぼほぼ日常となっていた。
布団を噛ませてどうにか毛並みからの距離を離したり、逆に背中合わせになって眠ればましではある。
結局、人間が犬人を眠っている間に悲しませたくないという気分ばかりは確かで、犬人も仕方ないと思いながら同じ部屋で眠り続けるのが問題だ。
そういった関係なのだから仕方ないけれど。そう何度も思いながら、打開策としては見当たらない。

「……うーむむ………」

敷布団の上と枕カバーは冷感素材だし、人間が着ているシャツもまた同じく。汗をよく吸う加工、しかし犬人の毛皮に抱き締められっぱなしというのは想定されては居まい。
犬獣人側もさくさくした手触りから毛並みの短さを毎日の手入れで保ってもいる。人間も手伝っているからよく分かる。
しかしながら暑い。エアコンの気温を許される最大限度まで下げているのにまだ暑い。それにタイマーが切れるまであと一時間程度しかない。

はっきり言ったら凹むし、未だに引きずっているだろう。コップの中の水を飲み干すまでにも良い考えは浮かばず、改めて犬獣人の側で横になった。

そして汗だくで朝を迎えた。

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あきゅろす。
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