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短篇
楽々の話1
歴戦の勇ましき存在、勇者がありふれた人と成り果てるにまでどれだけの時間が掛かるのだろうか。

完全に務めを果たして、後継者の力を認め、隠居生活を送るまでに三十年。
危うさが溢れる契約の元に力を振るい、寿命を削りながらも完全な契約が果たされて十五年。真っ当な人として埋葬された。
敵国によって捕虜として扱われ、力を振るえなくなるまで二年半。
それから、雄である事さえ忘れるまで半年。
完全に陥落せしめた、人として扱われなくなる肉人形としては今や三ヵ月も掛かりはしない。

「…………」

それ程に、洗っていない事もあってか緑色に腐食した魔物革製の仮面を被った熊人の技術と、死人を積み重ねて造り上げた薬剤の性能は上がっている。
時々の反骨心によって傷付けられる事さえも無いとは、彼の骨格に纏った強靭な筋肉と脂肪から分かり得ているものだろう。
骨を砕く事も牙を引き抜く事も、仕込むのに急がない限りは行わなくなった。ただ色欲と淫らに溺れたままに、受け手側が自ら抜いてくれるのだ。

愉快に思える。勇ましきまさに勇者様、と言うべき義憤に満ち溢れた瞳が光を失うその瞬間を。
固く引き締まっていた身体を切り裂くのも、逆に太らせてしまうのも、保ったまま身体の奥底を雌として侵し尽くすのも実に楽しいものだ。
場末の娼館へと売り捌く。時には魔物への肉として命まで差し出し、生きた調度品に作り替えるのも幾らかやった。
顔こそ隠したままながらも煙草を嗜むしゃがれた声と、骨に革を貼って作った仮面は立派な調教師の証。
表の顔では、熊人として平民に対しての寄付を惜しまず、貴族に対しても顔が利き、戦場においては猛威を振るう。

「……む…」

そんな男が頭痛に悩まされてから、どれだけの年数が経ったのかも定かではない。
身体に対して不調がある訳でもない様に思える。仕立てている間にも睡眠時間等は決して欠かしていない。
日頃から運動や舞踏も行っている。喫煙に関しても最近は本数を控えているというのに。

ならば何故なのだろうか。今日は二人組の、義賊として盗みを働いていた貧民の中の勇者を夜には仕立てなければならなかった。
拷問として首を晒すのも何ら問題は無い。肉便器として飾り付けるのもまた愉快。犯さなければ命を奪う、と扇動するのも楽しかった。
なのに頭が痛い。別段湿気が籠っていたりもしてない、青空が広がっている晴れの日であるのに。

「…………」

考えを巡らせている間にも、知らぬ間に股間が張り詰めてズボンに大きく太い膨らみを造り上げるのが自分にも分かる。
だが頭痛は消えない。両脇から万力で締め上げられている様な痛みだ。以前拷問を行った者への祟りであるかもしれない、
等と思いながら、家の棚の中等を漁ってみたが、鎮痛剤の類は見つからなかった。普段より調教を行う部屋の中は真っ当な薬は無い。

一通りの調教を終えてから、頼み込んでみるとしよう。
気晴らしの為に煙草を一本吸いきってから、熊人は今日も存在を知る者さえ少ない地下室へと向かう。
場所が場所だけに直属の薬剤師が寝室兼研究室をその隣に据え付けているのだ。新薬試験から何まで自由。
距離が近いのは、何とも良い事だ。

「はい、まずは丁寧に風呂で洗ってから渇いたタオルで水気をきっちり拭って塗って下さいね、一回につき匙二杯分。薬が無くなるまで他人との交わりや自慰行為は厳禁です」
「……頭痛薬だ」
「あっそっちですかぁ。てっきりやってしまったのかと思ってたんですけどね……」

生活臭が漂うローブを纏ったジャガー人の薬剤師から頭痛薬として丸薬を二週間分渡される。
同じく出来れば試してみて欲しい新薬、とはこの場においては媚薬を差している。試す相手は熊人ではない。

「お大事に」
「…………ああ」

仮面の位置を調節してから、扉を二枚隔てた先には拘束された義賊達、血と精液と死骸を吸った部屋が待っている。
渡されたばかりの丸薬を水なしで飲み込みながら、気合いを入れる間も無く股間に血が滾るのが分かった。年甲斐も無く、興奮している様だ。

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あきゅろす。
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