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短篇
ふゆ-9
どうやって家にまで帰って来れたのか、人間は分からなかった。
気が付けばいつも通りに温まった部屋の中にいて、服を脱いだ所で見えるのは下腹部。

「うっわ……夢じゃ、ないんだ……っ」

その下腹部はの猪人を少しだけ思い起こさせる様に、本来以上にぽっこりと大きく膨らんでしまっている。
未だに腸内に根付いて固まっているのかと思える程で、精液をどう処理すれば良いのかは分からないが。
思い返している間に、自然と猪人の事を思い出してしまう。あの熱気にあふれた感覚、優しかった割に実際やる事はえげつなかった思い。

「っく…は……っ……」

全てを含んでも、どこか心地よくて、優しかったあの雰囲気に悪くなかったな、との思いはどうしても頭の中から振り払えない。
本当はどうだったのか、と言えばまさしく夢見心地と言える程に心地よく、未だに腸内で熱気を保っている様な精液に膨らんだ腹さえも何処か誇らしく思えている。
再度湧き上がって来た興奮に再び股間が膨らみ始め、ズボンの中から漂う性臭が決して夢でも何でもない事を改めて思い出させた。

精液がこのまま固まってしまったならばどうしようかといった恐怖を僅かに感じたが、明日が休みである事を思い出して安心する。
強盗に巻き込まれた事もあったので、少し休みを貰うのも良いかもしれない。せめて前向きに物事を考えながら、膨らんだ腹を刺激しない様に仰向けになって人間は眠った。

「くぉ、っふ、ぅぅぉぉぉぉ…っ……!?」

そして翌日、トイレの中で栓の代わりを果たしていた精液が蕩けた途端に、固まりかかった濁液を噴き出す感覚に軽く絶頂にまで達してしまった。

這う様にして出ながら、トイレが詰まってしまわないかと思って獣と雄の香りが入り混じった空間から逃げ出す。
すっきりとした下腹部に残る甘い疼きの中で、あの場所を調べようと図書館に向かおうか、と惚けかかった表情のまま思うのであった。
どうせ予定なんて入れられないのだから。

「…………」
「やぁ、元気そうで何よりだよ…今日は休みかい?」

まるで木の様な茶色い何かが自宅から見えているかと思ったら、其処にいたのは猪人であった。
殆ど全裸の様相に自室の温かさからか大きさが際だって垂れ下がっている睾丸、そして耳元で揺らめく金の鈴。
にこやかに笑みを浮かべる猪人に驚きながら、いつの間にか天井近くに神棚が据え付けられている事にも気が付く。
あの空き地の中にあった社がこざっぱりとした状態で、勝手に人間の家へと祀られている。

「ど、どうして……」
「君が運んでくれたんだろう…あの時……」

昨晩の事を思い出した。きっとあの場所では何も出来やしないと思ったのだろうか。
人間は何か言った気がする。そう、確かあの時。

『……このまま』『え?』
『このまま…空き地の中…から……えっと…自分しか貴方が見えないなら……家に……』

「という訳だ…何、神が家の中に待ってくれている。招いてくれていた君には、せめて報いたい」
「…………」

人間は頭を抱えて叫びたいとの思いを、やはりどうにか押し殺す事しか出来なかった。これから一人ではない事は、少しだけほっとするのだけれど。
相変わらず全裸で、天井に頭が付きそうなぐらいに巨大な猪人。その正体は神の使いだかで、人間の下に住み着く事になるのだろう。

「別に食事は要らないよ…ただ、昨日の様な事を、時折頼む場合もある」
「……あ、あの…」
「君が思い、願い…祈り続けてくれる限り、悪い様にはしない…文字通り神に誓って、君には悪くさせないよ」
「だ、だったら…まず服を、着て下さい……」





人間は深夜のバイトで働いている。基本は少しだけ困る事もあるが、人間自体満足はしている。
ある日を境に、人間の自宅の中には、暖かな空間と、他者の存在が温かく迎え入れてくれる。

「下半身、どうしたんですか…?」
「少しきつくてね…」

余り服を着てくれない猪人に、人間は何ともいえない表情に赤みを差し込ませながら、ゆったりと過ごすのであった。
祈りと、願いと、捧げるものを忘れる事無く。

【終】

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あきゅろす。
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