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短篇
エロいかなヒーロー?5
爆発すればそれまで、という訳では無い程度には闇医者の安全は保障されていた。分厚い隔壁は音も何も外部に漏らさない造りであり、爆発の衝撃は此処までは恐らく届かない。完全には。
爆発させなければ安全であるという実証も無いものだが、最初はアームの操作で注入した麻酔に、分解した機構、そして輝石は問題なく取り出されていた。保管用の容器までは人力によって用意された様子までモニター越しに映る。

次は苦痛を与えた場合。最も手っ取り早い方法の一つ、ぎっちりと身体を拘束したヒーローに対して、麻酔無しでの摘出を試みる。機構が心臓に隣接していたとしても関係無い。輸血も薬剤も用意されている。
驚きと恐怖が入り混じっていた表情と見開かれた瞳は骨を切り開く丸ノコの回転すら逃さなかったのだろう。開胸器が嵌められた内臓は若さに違わぬ綺麗さと思いきや肺には煤が付着している。喫煙者だった。
細かな動作から何までを執り行うアームはまさに闇医者の新たな腕だった。暴れる身体に針は的確に血管を射抜き、内臓をどけ摘出される苦痛と絶望に張り裂けそうな顔のヒーローを他所に操作も何も淀みは無い。

ほんの数時間の間に爆発は少しも起きる事は無く、ヒーローであった男二人はただの一般人となった。開かれた後に縫合してくれるのが唯一の救いであるかもしれない。ヴィランの本拠地で行き続けるのが、地獄で無ければの話だが。

「…………」

タブレット上のデータとにらめっこしながら、苦痛の次には快楽、快楽の次には環境が問題だろうと防護扉を開かせて碌に消毒もせずに執行してみた辺りで異変にも気が付いた。喉が渇いているし空腹だ。
時間は掛かる手術を連続して行ったならば当然か、と納得して闇医者の頭の中で第一の問題は無くなった、そして再度黒龍人が彼の下へと訪れる。此方を目にしてにやり、とまた義歯を覗かせる笑顔を闇医者に浮かべた。

「順調な様で何より、そして半日飲まず食わずだ……いや本当に、順調な様で、何よりだよ」
「ありがとうございます……そろそろ一息入れたいので」「いや本当に、最初から取り出し方を知っているみたいな出来の良さだ」

尖った爪が闇医者の首筋、内側を取っている太い血管に這わされていった。少し力を加えるだけでも簡単に破られてしまいそうだ。爪越しにどくどくと血潮が走っているのも感じ取れる。医学の基礎だ。
ごく軽い傷を残す様に軽くなぞりながら、耳元で囁かれる言葉には怒りは無い。今はまだ。アームを扱っていた両手が痺れている事にそこでやっと気付く。
ヒーローとしての力を失った者はこれまでの間に五人。危惧されていた事故は一度も発生していない。容器の中にはしっかりと、色こそ異なるが同じ力の源である輝石が五つ保管されている。

「いや、何も問題は無いものだ。完全とまでは行かなくてもある程度摘出の仕方を心得ているというのは実に良い腕前であるのだから……何より、ヒーローを五人も無力化した技術はどうしたとしても評価するべきだ」
「ならばどうするんですか?」
「仮定はいくつか浮かんだものだが、実際に試さなければ何を意味を成さない上実証するのはそっちだ、このまま俺の元へと来て実験を続ける気は?」
「喜んで、とは行きませんが」

自由意志に則ってはいない問いかけであるとは容易に分かる、誰だって首元に爪を突き付けられて、その上この龍人には大抵逆らえないというのが悪の掟であり暗黙の了解。

「爆発の原因を特定出来る間…より少し長くなるかもですけど」「決まりだな」

その後龍人に頼み、龍人が下っ端に頼んだ食事と仮眠を済ませて、更に二人のヒーローから輝石を取り出した。爆発はしなかった。
試しにとまた別の闇医者にアームの操作と摘出を行わせた所、無事に爆発してしまった。

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あきゅろす。
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