chu×3-01



やばい、目の前に居られるリボーンの目に捕らわれたみたいに逃げられない。周囲の風景がぼんやりとして何も見えないぜ…ッ。というか、腰が抜けて、立てない。膝ががくがく震えてる。


「お前、今ので酔ったのか」
「だ、だって、初ちゅーだっ…たのに!」
「ほう。そりゃ良かったじゃねえか。ちなみに、ちゅー言うな」
「えっと…じゃあ接吻?」
「キスって言えるだろ」


個人的に、キスが一番恥ずかしい言い方だと思うんですよ。なんとかリボーンの背に回った腕を放してもらい、一人で座った。
改めて周囲を見渡した。私の下には綺麗に揃えられた芝生が。それから、噴水とそれを囲むように小さな花が花壇に敷き詰められている。そこは立派な庭…というより大規模な中庭なのだろうか。私が見る限り、正門のようなものが無いのだ。次に視線を上へ向けると(リボーンがやらしくこっち見てるけど、無視、彼は今ピンクい空気なのだ!)白を基調とした大きなお屋敷が、佇んでいた。優しい色合いで、繊細な花の模様が彫られていたりしているのに、どこからか威厳のような緊張感が伝わってきた。

原作では見てないけど、もしかして此処はボンゴレのアジト…?


「何でわかったんだ」
「…っえ…?」
「お前、俺の名前も知ってたな。スパイか?」
「あ、リボーンって読心術使えるんだっけ…」
「……人の話聞け」
「あ、ごめん…なさい」

リボーンの右手がスーツの懐を漁っているのを見て、私は少しだけびくりと肩が震えた。だけど疑うのは当たり前だと思うし、恐怖は無くて、リボーンに隠しておくのはやめようって身体がそう勝手に決めていた。
真横で、今にも顔がくっ付いてしまいそうな至近距離にいる彼を見上げた。

「スパイではないです」
「…だろうな」
「自覚はありますよ、無用心ってよく言われるし」
「だな」
「否定しないんですねー。事実、ですけど、えっと、話すから離れて欲しいな…」


男性は苦手ですというと、楽しそうに喉で笑っていた。全然人の話聞き入れてくれないんですけど…!!!
スルーを決め込んで、とりあえず言える事は全部言った。まず、何故リボーンやボンゴレのことを知っているか。漫画になってるなんて、流石に言えない。だからそこは"ツナを中心にした物語"と、濁した。それから此処にリボーンがいるという事は、私は異世界の地球に来てしまったのだ。どういう原因かは全然わからないけど…。


「成る程な。まあ仮に、お前がスパイだとしてもこんなとこで寝るわきゃねえし、俺はとりあえず信じる」
「…一番疑われそうな人だと思ったのに吃驚だ」
「お前の目が、嘘を言ってなかった…んだ」
「ありがとうございます。リボーン」

笑ってみると、なぜか彼の表情が固まった。



――――



ダメツナもやっとボンゴレのボスとして上手くやっていけるようになった。だが実力はまだまだ伸び盛りで、俺も周囲の警戒を緩めるわけにはいかなかった。
今回は直接マフィアに関係しているわけじゃないが、ただの一般人を殺めたヒットマンがいるとの事で、俺はそいつを捕まえてこいとツナに任務を与えられた。大した奴じゃなかったが、ターゲットは個人で動く為、なかなか居場所を突き止めるのに苦労させられた。
今日は休暇をとって、ゆっくり休もうと中庭をぶらぶらしていた時、俺らは出会った。


「で、名は何ていうんだ」
「海棠リラです」
「俺は…いいな、知ってるだろうから」
「は、はい。でも大人の貴方を見るのは初めてなの」
「ほう」


異世界から来たなんて、普通言っても信じないだろうに。それを躊躇いなく口にしたリラに俺は内心感心していた。俺も男だ、こいつは男が苦手と言ったくせに今の自分の服装の事を恥じらいもしない。なんて無防備なんだと思ったのに、どうにも調子が狂う。真っ直ぐに覗き込んでくる瞳に、俺も視線をそらせなくなった。
(すげえ綺麗な目してやがる)


「あー…赤ちゃんの頃のリボーン見てて、会いたいなって思ったから此処に来ちゃったのかもしれないね」
「(少しは照れろよ)本当に馬鹿だなお前」
「あはは、はっ…くしゅっ!なんか寒いよ!」
「…当たり前だろ、馬鹿が」


苦笑するリラの服装は、恐らく部屋着なのだと思うが、薄着すぎて。キャミソールと膝下の黒いズボンを穿いている。細い肩と線がよくわかる服装はどう見ても外出する服装ではない。そうでないと、思いたかった。
小さく溜め息を吐いてから、着ていたスーツを脱いでリラに羽織らせた。


「ごめん」
「一々謝んなくていい、」
「じゃあ、ありがとう。……?あ、あれ、このスーツ…」
「どうしたんだ?」
「ううん、なんでも、ない」


なんでもないわけは無いだろうと思った。俺のスーツを不思議そうに眺めている。そして、あろうことかそれを引き寄せるように着込んだ。
… ……や、べえ…
本当に金縛りにあったみたく動けなくなって「あったかいねー」なんて呑気に言っているリラ、春でもないのにこいつから花が舞う様な香りがした。



*****
act.01
(俺、どうしちまったんだ…)
(すごく、だきしめたくてたまらなくて)


20090904






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