×大人 ○大きな子供



ここ一ヶ月弱ほど、お互いにちょこちょこと仕事が入ったりした所為でほとんど顔を合わせられない日が続いた。それだけ綱吉くんに頼ってもらえてるのは嬉しい…事は嬉しいんだけど、ここまでリボーンと会えないなんて拷問というか、なんというか苛めですよね。もう昨日、一昨日くらいなんかは自棄になって短期任務を猛スピードで終わらせてきた。
今日こそ、居ますように…。リボーンに迷惑を掛けないように電話やメールでの連絡を控えているので、直接彼の部屋へ赴く事にした。コンコン、と小さくノックをしても全然返事が返ってこなくて、寝てるのか、変なことしてるのか、不審に思って強めに叩いてみると、だるそうな声調で入れー、と聞こえた。


「微妙に久し振りだな」
「だね、寝てたの?」
「まあな」
「私の声で起きれないって、どんだけ疲れてるのよ」
「…リラの声は聞き慣れちまったんだかなんだか、反応できねえんだよ」
「……え、…あの、それって」


リボーンは私を信用してくれてるのだろうか。ゆっくりとした動きで起き上がり、ソファに座りなおしたリボーンは此方を見上げ何しに来たんだ?と言った。
(寝起き、格好良い…)
こんな風に気を張り詰めたりしないで、いかにも休んでますっていうリボーンはいつもと違い、目元が優しい。


「…リラ?」
「ああ、え、えっと…その」
「何だ?今俺かなり機嫌良いから何でも聞いてやる」
「いやあの、ただ、リボーンに会いたいなーとか思っただけでして」
「…… …」
「ごめん、出直して来るわ」
「いや、……イイ、かなり今の良かった」
「はあ?」

何が言いたいんだ、このヒットマン殿は。流石に寝惚けてるわけじゃないと思うんだけど。立っているのも何なので、リボーンの隣になるべく邪魔にならないように座らせてもらった。何も言わないという事は座っていいですよ、という事。
今日はオフという事もあって普段より緩めの服装で来た。よくリボーンに身軽なコーディネートだけはすんなと言われているんだけど、今日だけは正装も面倒臭かった。


「…ちょっと寒いかも。リボーンの部屋って少し室温設定低いんじゃない?」
「普通に決まってんだろ。お前薄着やめろって言ったじゃねえか。……これでも羽織っておけ」
「あ、ありがと」

いつも彼が着てるスーツを被せられた。

「あー、なんかリボーンと居るのにこんなに平和なんて奇跡だわ」
「俺に喧嘩売ってんのか?ん?」
「ち…っ違うってば!偶にはこうやってのんびりするのもいいなって」


この人が隣にいると、基本的に穏やかではいられなくなる。リボーンに鬼畜、変態、サド、なんて言葉を並べれば銃を頭に押し付けられるか。もしくは、『ほお、じゃあそんな鬼畜変態サドを好きになったお前は何なんだ?』とかいって苛めてくる。そうですよそれでも好きなんですよ。いざと云う時は何だかんだ言って優しいし、格好良いし、…強いです。

「なんだ、今日は心の中まで素直じゃねえか」
「のんびりしたいんだから読心術は使わないで!」
「使いたくなくてもリラがわかりやすいのが悪い」
「…そうですか」


お互い、仕事疲れで気力がそう多く残っていないらしく、そこから暫く会話が途切れた。どこで聞いたのか憶えていないけど何故か浮かんできた曲を口ずさみながら部屋の天井を見上げた。真っ白じゃなくてクリーム色に近い色で、控えめな万華鏡のようなパターンの壁紙は綱吉くんの好みらしい。嫌いではない、寧ろ好き。綱吉くん曰く真っ白はなんとなく肩に力が入ってしまうから。
なんかわかるなあ。
と、急に何かによって視界が遮られほぼ闇世界になってしまった。何かって言ってもこの部屋には私以外じゃリボーンしかいないんだから、犯人なんて分かってるんだけどね。
(耳元に彼の吐息を感じた、)


「く、くすぐったいよ」
「…リラ… 愛してる」
「っ…は、はあ!?何言ってんの急に…!」
「退屈そうなリラにプレゼントだ」

違う、絶対違う。私が恥ずかしがってるのを見て遊んでるだけだ。そういうのが好きなんて、やっぱりこの人鬼畜だ。それさえもリボーンは読み取ったのか、まあな、なんて格好良く笑う。

「……退屈じゃなかったのに」
「お前、のんびりするって言って本当にのんびりしてられんのか?」
「どういう意味よ!」
「いっつも執務室入ると30分もしない内に俺に泣きついて来るだろうが」
「そ、それは…」
「まあいいさ、俺はまだ眠いから少し寝る。頑張ってのんびりしてみろよ?逃げれるとは思うな」


堪えようともせず、リボーンはにやにや笑いながら私のわきの下に手を滑らせ抱えてきた。(何するの…!?)膝の上に乗せられ、抱き枕代わりにされてしまった。どうせお前には無理だと言いたいらしい。わかってるんだったら寝ないで話し相手にでもなってよ!なんて思ったら、リボーンはボルサリーノを前へ深く傾け、目の辺りを隠すようにして寝てしまった。
(…どうしよう)
リボーンの部屋はあんまり物がない。時間を潰すのに本でも読もうかと思ったんだけど、彼はいつも皆が読んでる新聞しか見ないんだった。それ以前にこの状態じゃ取りにも行けない。じゃあ友人とメールでもしてよう!そう決めてポケットに手を突っ込んだら空だった。自室に置いてきてしまった。リボーンを起こさないように静かにしてなきゃいけないし、うーん、うーん…と心の中で唸ってみた。


「もう…近い、ってば」


ドキドキして寝る事すらできない。つまりこのままリボーンが満足するまでいなきゃいけないのか。これはきつい。本当、きつい。何時間、いや何分経ったのか時計が見えないからわからないけどリボーンに触れられてる事によって我慢の限界が早まってしまった。


「り、ぼ、……起きてるんでしょ!ねえ、起きてるんなら離して!」
「………」
「(くそっ、寝た振りしてるのはわかってるんだからね!)」

叩いてやれば幾らなんでも起きてくれるだろう。怒られるのを承知で額の辺りをべしっとやった。

「…え…起き、ない」


本当に寝ているらしい。どうしたらいいんだ。じゃあいっその事お腹でも殴ってやろうかと思ったら、細身のくせに力が強い所為でやっぱり腕が上手く動かせない。
(眠ってる人を起こすのに…)
嫌な物を思い出してしまった。白雪姫をやれと、リボーンは言いたいのか。お前はどちらかと言えば王子様の方でしょうが!怒鳴りつけてやりたかった。いや、この綺麗な顔立ちならお姫様でもありかもしれな……止めておこう。なんか惨めになった。覚悟を決めてリボーンを見上げる。ボルサリーノの鍔が少し邪魔なので持ち上げるといつも鋭い視線を送る瞳は閉じられ、長い睫毛が存在を主張している。羨ましいです。


「…… 今回だけ、よ」

キスと呼ばれるものをするのが恥ずかしかったから、ただ唇を押し付けるだけ、そう言い聞かせてリボーンのそれと重ね合わせた。多分起きてくれるはず。薄っすらと閉じていた目を開けると、そこには普段通りのニヒルな笑みを浮かべたリボーンが居た。


「ん、…んんっ(こいつずっと起きてた…!?)」
「甘ぇな」
「…っ、騙したな!」
「リラがどんな行動に出るか気になっちまってな。こんなサービスしてくれるとは予想外だったぞ」


嘘だ、うそだうそだうそだ、絶対こうするまで起きないつもりだったくせに!結局、リボーンのペースに流されてしまった私。悲しくて、今度こそ彼の額を腹を殴ってやった(手加減はしたけど)。見上げたリボーンは笑いながら怒っていた。



主導権を握るのはいつも貴方です
(さあどんなお仕置きされたい?リクエストがあれば聞いてやる)


20090920






第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!