chu×3-30



微々裏要素入ります。








頭がうまく働かない。でもリボーンがずっと私のお腹の辺りを見たまま動かない。私はむずむずするような変な気持ちのまま、彼の表情を見上げた。眉間に皺を寄せて怒っているらしい。何でだろう、痛いと言ったことが悪いのだろうか。雰囲気に水をさしたからみたいな感じで。


「リボーン…?」
「………リラ、」
「ん」
「この腹の痣は誰にやられんだ」
「え……、あっ…」
「誰だ」


指摘されたそこを見れば、紫とまではいかないけど、赤く内出血のような痕がくっきりと残っている。リボーンがいない間、自分でもよく覚えてないくらいぼんやりしてて、お風呂入るときですら気付かなかったけど、誰にやられたかくらいはすぐに判ってしまう。あのメイドさんたちだ。傷というのは自分が気付かない間はあまり痛くないのに、そこに傷があるとわかった瞬間にズキズキと痛み出すものなのだ。
リボーンの指先が痕を少し押すように撫でると、やっぱり痛い。よくわからないけど、普段なら平気な痛みにも耐えられなくてリボーンの腕をぎゅ、と握った。


「痛いから、離して」
「じゃあ、答えられるよな?」
「……うん」
「外部にリラの事は漏れてないはずだ。この屋敷のやつか」
「えっと…… あの、屋敷のメイドさん、がね」
「あいつらか」


眉を寄せていたリボーンの表情がさらに険しくなって、革のパンツに引っ掛けてあった銃を今にも抜きそうだった。そのくせ背中を抱いてくれてる腕は優しい。
(…服着たい)
雰囲気ぶち壊しな事を考えていた。そんなにメイドさんたちの所に行きたいなら、どうして貴方から行為を誘うような真似したんだ、って思ってしまった。別にメイドさんたちを恨んでるわけでもない、そんなのどうだっていいから、さっきのリボーンに戻ってほしい。


「……殺してくる」
「!?待って、そんなのしなくていいから!わ、私…メイドさんたちの事許せるわけじゃないけど、気持ちは、わからないでもない、から」
「…なんだよそれ」
「メイドさんの中でリボーンの事好きだっていう人いたの。考えてみてよ、昔から好きだった人を急に現れた人が横から攫って行ったら、いい気分しないでしょ?」
「まあ、そうだな」
「でもだからってメイドの仕事もしないで、好きな人に媚びてるんじゃ、認めてもらえないって言ったら…、こうなった」

それを言ったのが直接殴られる事と結びつくわけじゃないけど。

「成る程な、で、リラは?やり返せば良かったじゃねえか」
「そこでやり返したら負けかなって思ったので…」


あの時は、不思議と反撃しようという気が起きなかった。リボーンがいなくて余裕がなかったし、やり返すだけの体力や気力が湧かなかったのもあったけど、でも今ならわかるかもしれない。リボーンは、私の事を好きと言ってくれた。愛人でもないと言ってくれた。だから、やり返す必要もないんだ。彼と知り合ってからの時間は短いけれど、彼を好きだという気持ちはメイドさんたちなんかには負けてない。


「クク、やっぱお前は最高だ」
「…は?」
「否…何でもねえよ。リラの言う事なら聞くしかないな、殺すのだけはやめておいてやる」
「あ、…ありがとう」
「とりあえず、怪我の手当ては明日する。続きやるぞ」

もう続行なんて雰囲気じゃなかったのに、リボーンの顔付きが一気に変わった。それの所為か、忘れかけていた心地良さというか変な感覚がじわじわと奥底から戻ってきて、全身の体温が急上昇していくのがわかる。

「怪我のとこ、痛いので…優しくして…?」
「了解しました、お姫様」


どうしてこのタイミングで言うんだろう。低く囁くような声に合わせて卑怯なほど色っぽい流し目。反則だ!と叫ぼうとした私の口は見事にリボーンに封じられてしまう。ゆっくりとシーツの上に倒され、私はリボーンに全てを委ねることを決めた。




――――



こんなに深くまで寝入るのは久し振りなんじゃないか。夢も見ない、ただ寝てるとしか言えないくらいどっぷりと寝た。ふわふわしていた意識が急に浮き上がってきて、ゆっくり目を開くと、視界は霞む事なくクリアだった。頭の中はスッキリしてるし、疲労もない。隣を見れば、私と同じで服は着てないだろうリボーンが寝ている。

(やっぱり、安心するなあ…)

ドキドキもするけれど、隣にいてくれると酷く落ち着く。思わずくすり、と笑みを零せばそれが耳に入ったのか、見上げたリボーンも穏やかに私の事を見下ろしていた。


「おはよう、」
「ああ、顔色良いみてえだな」
「うん」
「…で?どうだった、初体験は」
「え、あのえっとえっとえっと、いいぃい…嫌では、なかった…よ」
「素直に気持ちよかったって言えばいいだろうが」

無理です。

「そういえば痛くないのか?」
「ん?あ、リボーンが気にしてくれたからお腹の方は…」
「違ぇって、腰だ腰」
「っ!」


言われた瞬間、衝動的に起き上がろうとしたら、腰に激しい痛みが走って、ぼふ、と枕にもう一度頭を沈めることになってしまった。優しくしてやるとか言ったくせに、結局私、何回か気絶してたみたいだし、止めてくれないし、全く気遣いの欠片も感じられなかったです。でもそれだけ求めてくれてるっていう事を実感できて嬉しくもあったけれど…。思い出したら恥ずかしくなってきた。
そういえば、腕や胸元を見下ろすとべたついてもないし、すべすべしてる。すごく汗を掻いた記憶があったのに、あれ?と首を傾げるとリボーンにどうしたんだ、と聞かれた。


「いや、いつの間に私、シャワー浴びたのかなーって」
「馬鹿か?俺が綺麗にしてやったに決まってんだろ、目が覚めてあのままだったら流石に、嫌だろうしな」
「…リボーン、ありがと」
「本来の俺は、こんな事してやる優しさなんて持ち合わせてねえんだぞ、光栄に思え」
「う、うんっ」


リボーンを見上げて言ってから、なぜか頬の筋肉が緩まってきて、自然と笑顔になってしまう。口にするのは恥ずかしいけど、リボーンとこういう事するの、その、あまり嫌ではなかった。本当に。体だけでなく心も幸せを感じていたからだと思う。
このままもう一度眠ってしまおうかなーなんて、言った後、リボーンはツナくんに帰宅したという報告を済ませてなかったと言い出した。つまりここに直行して、そのままなのか。


「一応、行った方がいいんじゃない?」
「まあ急いで行く必要も無いと思うがな」
「そうなの?」
「ああ」


しばらくのんびりしてよう、自然にそんな流れになって、二人でゆったりと時間を過ごしていた。が、どれくらい経ったのかリボーンが急に身を起こした。視線が少し周囲を警戒するような色をしていた。

「…?」
「誰か、来る」
「え、誰だろう」
「多分女だ」



*****
act.30
(思い浮かぶのはあの人)(お腹の怪我がズキリと疼いた)


20090921






あきゅろす。
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