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解禁日





長い長いストレスから解放される。やっとテストが終わった。


全ての教科が終了し、静かだった教室は談笑する声や机ががたがたと揺れる音で溢れる。それらを頭の片隅で聞きながら、ひんやりとした机に額をつけて瞼を閉じる。開いた扉から冷えた空気が入り込んできて、神田はぶるりと肩を震わせた。
背中を預けてある椅子が通り過ぎる人にぶつかり、伏せたまま舌打ちをする。髪を引かれる感触にゆっくり顔を上げた。


「ユウちゃん、帰らないの?」


竜をイメージしたバンダナは、額にではなく首にあった。それでは意味がないのではないかと思ったが、声には出さずに目をこする。昨夜は遅くまでリナリーに勉強を教えてもらっていた為、肩に乗っていた重いものが降りると強い眠気が襲ってきたのだ。確か四時までやっていただろうか。この様子では向こうも睡眠欲と戦っていることだろう。
口に手を添えて欠伸をし、腕を伸ばして体をほぐす神田の代わりに、ラビは荷物をまとめる。筆記用具、問題用紙、参考書…ふと開いたページの余白を埋める赤や青の文字を見つけ、ラビは目を細める。
頑張ったんだなぁと感心していると、ぱこんと頭を叩かれた。


「全部入れたか?」

「うん」


ラビの手から参考書を引ったくると、それもスクールバックに入れてそれを机の上に置いてそれに顔を埋めた。ラビがえっと声を上げる。
既に教室からは生徒の姿はいなくなっていた。廊下側の一番後ろの席に神田とラビの二人がいるだけだった。日差しが入ってくるようになったため窓につけられたカーテンが風に揺れた。


「ユーウ。帰らないんさ?」

「………」


さっきと同じ質問内容に無視を決め込む。静かになってきた廊下に耳を澄まし、じっと動かずに待つ。
ぱたぱたと駆けてくるけたたましい音が聞こえてくるのを。

一週間前に出した「半径三メートル以内に近寄るな」という命令は、もうなくなった。これで赤点をとったら卒業出来ないんだからと言って、それ以来は彼は自分に会いにこなくなった。メールすらも、たった一通を除けばこなかった。
『頑張ってください。きっと先輩ならできますよ』という短い一文。分からない数式、覚えられない条約の内容を前にもう無理だと半ば諦めていたのに、本当にやれる気がしたから、あの少年は不思議だ。

早くあの自分にだけ向けられる偽りのない笑みを見せてほしくて、ずっと待った。
ユーウ、先帰るぜー?とラビが言ってからどのくらい時間が経っただろうか。神田の名を呼びながら駆けてくる足音を聞いて、口元が緩んだ。





end





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