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兎のロマンス






日本人は祭好きだ。春は桜の木の下花見といって集まり、夏は夜空に花火を咲かせ、秋は大きな屋台を引き、冬はクリスマスだからと親しい者たちとパーティーを開く。
街は浮き立った空気に包まれ、どこの店先にも華やかな飾りが施されている。どこからか流れてくる聴き馴染みのあるクリスマスソングを聴きながら、ラビはガラスの板の向こうにあるものを眺めた。二酸化炭素を含んだ吐息が、それを曇らせる。


「いいのあった?」


ガラスに映った少女に、笑って振り返る。別に、見てただけと答えると彼女はそう?と言って左手に持っているものを見せた。
彼の髪の色の対極とも言える黒いニット。目立つ白髪を隠すために帽子は何個も持ってると言った部活の後輩の言葉を思い出した。


「これなんかどう?」

「いや。これもいいけどアレンはプレゼントされなくても帽子はたくさん持ってるさ」

「へぇ、そうなの」


残念そうにニットに視線を下げると、リナリーはそれを元の場所に返すべくまた離れていった。軽やかに駆けるブーツを見送ってから、ラビは再び横長のガラスケースの中にあるものを見た。
今日はアレンの誕生日プレゼントを買いにリナリーと大きなショッピングセンターまでやって来たのだった。だというのに、なぜ自分は女性が好みそうなアクセサリーを見て、ポニーテールの似合うあの子の首に飾られているのを想像しているのだろうか。


「諦めが悪いさ…俺」


あの胸が焦げるような想いは当時と比べると静まっていた。そう努力してきた。だが、まだこんな想いが残っていた。情けないと知らず知らずの内に溜め息が出る。
ラビは物思いに更けていたせいか、戻ってきたブーツの音に気が付かなかった。口を覆う柔らかなものに、瞬きをする。


「溜め息すると幸せが逃げるよ」


視界の下に映った紺の毛糸はさっきまでリナリーの首を寒気から守っていたものと同じ色をしていた。振り返って、今度は幼稚園児と同じ背丈の小さなクリスマスツリーを抱えるリナリーが視界に入ってきてぽかんと口を開ける。だが、次の瞬間には腹を抱えて吹き出していた。


「ははっ、何さそれ。リナリー、ナイス」

「なによー、文句あるの。この前まだツリーなんてないって神田言ってたし、必要だって」

「ユウじゃなくてアレンのプレゼントだろ?」

「一緒に住んでるんだから、同じことよ」


唇を尖らせて反論するリナリーの言葉に、そっかと心の中で頷いてツリーを眺めた。
クリスマスにはいい思い出がないと寂しげに自分の過去の一部を話したアレンの顔が蘇る。彼は今年こそ素敵なクリスマスを過ごせるのだろうか。気象庁は当日雪が降る可能性が高いと言っていた。大好きな人と過ごす初めての誕生日に雪が降るなんて、案外運がいいんだなと思った。
ツリーのてっぺんにある、象徴ともいえる大きな星に触る。つるつるとした感触がした。電気を入れると光る仕組みになっているらしい。


「いいんじゃない、これで」

「やっぱり!?」


顔を輝かせて、リナリーは買ってくると一言言うとぱっと駆け出した。小さいとはいえ、女の子一人が走って持っていくのは重いだろうに、彼女はそれを思わせないスピードでレジへ向かう。
さすが陸上部、と感心し、近くにいた店員を呼び止めた。銀のチェーンの先にはカラーストーンのついたクロス。それを指差す。


「彼女へのプレゼントですか?」

「いや、ちょっと違うさ」


クリスマスプレゼントを渡すぐらいはいいだろ?

独占欲の強い大事な人の彼氏に心の中で問いかけた。






end








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