レベル不足 今日は寒かった。とにかく寒かった。風は冷たいし部屋の中も寒いし、天気予報で明日は一段と冷えるでしょうなんて言ってたのを昨日見ていたけど、それを見たからって自然に逆らえるはずもなくアレンは震えていた。 以前、よく神田がこたつが欲しいと言っていたのを思い出す。 アレンは義父が事故で死んでクロスという人間に預けられるまでは、イギリスに住んでいた。だからこたつというものについてはよく知らないし、最近は不景気で節約しなければならないからと結局は買わなかった。だが、 「俺ン家、昨日こたつ出したんだー」 「マジで!?俺、もうとっくに出してたよ!」 「本当、こたつは冬の必需品だよなー」 という友人の会話を聞いて、アレンはこたつが欲しくなった。(現金かもしれないが) しかし、アレンは以前こたつを否定した身。今更買おうなんて言いづらい。 (でも、寒いのはどうにかしたいなー) ストーブは灯油がきれていて使えない。日はもう沈みかけているから日光は当たらない。部屋の中で布団にくるまりぶるぶると体を震わせているが、それでも体は冷え切ったままだ。 そろそろ夕飯を作らなければいけない時間だ。しかし、冬の寒い日に布団から出るにはかなりの時間がかかるものだ。後、五分したら作ろうという考えを何回か繰り返し、ようやく決心して布団から出たのは既に夕日が姿を消してからだった。 夕飯は鍋にしようかと考える。だが、昨日も鍋だったのに今日も鍋を作ったら彼女に文句を言われるかもしれないなとアレンは顎に手を置き悩んだ。 「何突っ立てんだ、モヤシ」 がちゃりとドアが開く音と共に神田の声が背後から飛んできた。丹前を羽織っている姿に色気ないなぁ〜、とアレンは苦笑する。 「夕飯どうするか悩んでて。神田は何が食べたいですか」 「キムチ鍋」 「分かりました」 悩まずに即答した神田に、もしかしたら夕飯をリクエストする為に部屋から出てきたのかなと思いながらキッチンに向かおうとすると、神田はポケットから折り畳まれたチラシを取り出してアレンに見せた。何だろうと受け取って見ると、それは電化製品の年末セールのチラシだった。その中の蛍光ペンでチェックされている製品を見つけた途端、アレンは固まった。 「こたつ買いたいんだが、やっぱ駄目か?」 珍しく弱気な姿勢で首を傾ける神田にぐらりと心が揺れる。 まだ学生のアレンと神田は、神田の義父のティエドールからの仕送りとアレンのバイト費+博打で稼いだお金で生活していた。だから何か大きな買い物をする時はお互い相手の許可を得なければならないというのが、二人の間にできた暗黙のルールだった。 「駄目っていうか。うーん」 「こたつで蜜柑は日本人の常識だぞ。それに、こたつがないと冬越す前に凍死する」 「そんな大袈裟な…」 渋るように見せるアレンだが、内心チャンスだと思っていた。うまくいけばこちらが欲しいという素振りを見せずにこたつを購入することができると。 それにこんな弱気な神田、久々に見る。彼氏ならば彼女の願いを叶えてやりたいと思うのは当然。 「まぁ、そんなに言うなら…」 「それにお前だってこたつ欲しいだろ。顔に書いてある」 指差す神田に、まさか顔に出てるなんて思いもしなかったアレンはギクリと肩を震わせた。 「カマかけてみただけなんだが…どうやら本当みたいだな」 得意気な顔になる神田に、アレンはレベル不足を痛感させられた。 end |