鮮血のRelease
マシマロとグラジオラス
ミルフィオーレのアジトは、あの白の部屋からそう遠くない場所にあった。やっぱ近い方が良いよね。
「…びゃくらん。」
フワフワの白髪を揺らしながら5、6歩前を歩く白蘭。呼び掛けると声だけが帰ってきた。
「どうしたの?」
その声はやけに嬉しそうな声音だった。何で呼び掛けたか、わかってるくせに。
「…白。何処もかしこもみーんな白。そりゃさっきの部屋よりは全然ましだけどさ」
「うーん。それは困ったなァ…。じゃあ君の部屋には紅いの置いてあげるから我慢してくれる?」
「部屋あるんだ」
びっくり。雇った殺し屋に部屋とかすご。あ、紅いの置いてくれるんだ。ありがと。
「当然だよ。鎖チャンはもう僕のファミリーだからね」
ファミリー、ね…。そうこうしてる間に白蘭の足音が止まった。私もつられて静止する。
「さぁ此処が鎖チャンの部屋だよ」
部屋を閉ざしているドアの横にある指紋認証器機に白蘭が触れると、如何にも機械っぽい音が響きドアが開いた。
この部屋も白かと思ったら、全然違った。
全体が黒で統一されてる。…もしかして、白蘭は私の事を配慮してくれたのかな?
「あ、のー…」
「んー?」
「ありがとー…」
お礼を言うと白蘭は満足そうに笑って、くるりと今まで通って来た道に向き直り、片手をフリフリと振って戻っていった。私は白蘭の背中を見送る。
「…何も言わずに出ていっちゃったけど、いずれ呼びに来てくれるよね」
ぐるりと室内を見回すと、灰色の小さい冷蔵庫があった。すると胃袋が反応したのか、ギュ〜〜〜…と小さく音が漏れた。
「…なにか、食べるもの」
そういえば昨夜の依頼主から報酬貰ってないな…。と考えながら冷蔵庫のドアに手をかけた。
開けると、明らかに詰め込み過ぎだろうと思える程の袋が出てきた。
「ましゅ…ま…ろう…?」
英字表記されていた白い食べ物。白蘭は本当は白いの好きなんじゃないのかな。まぁ…とにかく食べてみよう。
ビリッと封を切れば甘い香りが漂う。うん、食べ物だ。甘い香りに誘われるがまま一つ、口に含むとより一層甘さが広がった。
…おいしい。
また一つ口に含む。すうっと甘さを広げつつ溶けてなくなっていく。白蘭はこんなにおいしいものを食べていたのか。おいしいおいしい。
「あれ?鎖チャンそれ食べれたの?」
いつの間にか白蘭が部屋に入っていた。うん、これおいしい。
「ごめんお腹空いてたから食べちゃった…」
ふりふりと空になった袋を振る。
「別に良いよ♪ね、白いのも悪くないでしょ?」
コクリ、と首を縦に振る。案外白いのも捨てたもんじゃないね。
「そうだ、その冷蔵庫のマシマロ、全部あげるよ♪」
「…いいの?」
「良いの良いの。まだまだ保管庫に沢山あるしね。足りなくなったらまたあげるよ」
やった。毎日コレが食べられる。…でもちょっと甘いからそう何袋も食べないようにしよう。コレはマシマロっていうのか。うーんマシマロ。
「…それにしても何で白蘭は此処に来たの?」
「あっ、忘れてた!ほら、紅いの持ってきたよ♪」
そう言ってジャーンと出したのは…なんの花?私が首を傾げると白蘭は教えてくれた。
「グラジオラスって言ってね。黄色いのもあるんだけど鎖チャンが紅いのが良いって言ったからこっち持ってきたんだけど…。あ!鎖チャン、お花で大丈夫?」
「ありがとー白蘭。全然大丈夫だよ」
白蘭からグラジオラスを貰い、ぎゅっと鉢を抱きしめる。うん、良い香りだ。日の当たる窓の近くに置いておこう。大事にしなきゃ。
床に置いた鉢をしゃがんで見ていると「ねぇ鎖チャン。今から散歩しに行かない?お昼前の運動って事で」と上から声が降って来た。
散歩、か。殺し屋になってからは全然関係なかった事だ…。たまには殺人から離れて世界を見るのも良いかも知れない。
「…案内宜しく」
「任せてよ♪」
じゃあこの中から好きな服を選んでね、と白蘭が指をパチンと鳴らせば、ドアが開いてピンクの髪の女の人達がズラリと服を持ってきた。多い…。
「下の回で待ってるよ。じゃあチェルベッロ、頼んだよ」
「了解致しました。白蘭様」
声を揃えて女の人達は言う。此処まで揃ってるとちょっと怖いね。新鋭隊?
白蘭が部屋を出ていくと、チェルベッロさん達は何かが目覚めたように次々と私に服を合わせてきた。ちょ…落ち着いて下さーい。そんなにはしゃがないで。
暫くすると「来ちゃった♪」と白蘭が部屋にいきなり入ってきた。それに驚くチェルベッロさん達はスイッチの切り替えが神速レベルで無表情に戻った。え…ボスの前ではクールな部下的な…。大変だなー。
白蘭はジロジロ私を見ると
「うん、凄く可愛い。鎖チャンの隣に居ると僕が霞んじゃいそうだ」
笑顔かつ真剣に言われるものだから、つい顔がボッと紅くなってしまった。悔しいから白蘭を軽くど突く。
そして私達はグラジオラスの花に見送られながら部屋を後にした。
2010/06/10
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