可愛い旦那さま(アルミラ)
(現パロ/夫婦)
「たっだいま〜ミラ様」
「おかえり、アルヴィン」
随分と上機嫌で、らしくない鼻歌なんかを口ずさみながら旦那さまが仕事から帰ってきた。見れば、実に真っ赤な顔をしている。いつも通りに玄関で出迎えたところ、途端に熱い抱擁が待っていた。思った通りの匂いが鼻を掠めて、やれやれとため息を一つ。
「飲んできたのか?」
「んーにゃ、軽〜くだよ軽〜く」
「それにしては随分とヘロヘロじゃないか」
「こんなん飲んだうちに入らねーって」
「‥そういうことにしておくよ」
さて。
大分長い抱擁である。いつまで抱き付いているつもりなのだろうか。愛情表現はとても嬉しいのだが、そろそろ部屋へ帰りたいのが本音だ。ついさっきまで読んでいた本の続きも気になるのだ。とりあえず身体を捻ってリビングの方に向けば、アルヴィンは少し腕の力を緩めてくる。漸く離してくれるのかと思いきや、そんなことはなく。仕方なしにそのまま歩き始めれば、子供がする電車ごっこのような形で(それにしては、腕の位置が変ではあるが)のそのそと着いてくる。今日はやけに甘えてくるなあと、ついついミラは苦笑いを浮かべてしまった。
「…」
「…なー」
「どうした」
「それ、面白い?」
結局リビングに着いても腕が解かれることはなく。しょうがない、と気にせずソファに座って本を読み進めていると、不意に隣から掛かる声。『それ』が本を指していると理解したので、ミラはああ、と返事を返す。そんなつもりは全くなかったが彼には無愛想な返事だったのだろうか、隣の旦那があからさまに「ふーん」と拗ねた声色になってしまった。
「ミラ、俺より本のが好きなのかよ」
「…」
「聞いてんの、」
「…ふふ、」
「何笑ってんだよ」
「…ああ、済まない。気を悪くしたなら謝るよ。ただ…本に嫉妬するなんて可愛いと思ってな」
「……」
アルコールとは違う意味で赤くなった頬を隠したいのか、此方の首元に顔を埋めてくる。…この男、26歳の立派な成人男性である。拗ねる姿が可愛いなんて思うのも、惚れた弱みというやつなのだろうか。
「ちゃんとお前の話は聞くよ。だから、そう拗ねるな」
「…ん」
頭を撫でれば一言だけそう返ってきた。まったく、本当に仕方のない奴だ…なんて思いながら、ミラは彼のそんなところも好きだった。今日は何か仕事で嫌なことでもあったのかもしれないし、不安になったのかもしれない。今までは相手に見せたくないと頑なだった弱い部分──前まではそれから逃げていた男が、今は逃げずに此方に帰って来ているのだ。それがたまらなく嬉しい。
「お前の弱い部分も含めて…お前が自分で好きになれないところも、私が好きでいるよ」
「……バカだな、ミラ。甘やかし過ぎだって…」
「そうか?」
必死で抱き締めてくるこの愛しい男を、見捨てるようなことは出来る訳がないじゃないか。たとえ何年経っても決して変わることがないのだと、いつになったら分かってくれるのだろう。自分は愛されていい人間なのだと認められる日が、いつかくればいい。一生かかってもいい。いつか、いつか…
「そういえば、返事をまだ貰っていないな?」
「…俺は……愛してるよ」
「ふふ、そうか。私もだ」
"真っ赤だぞ?"
笑ってそう言えば、余程悔しかったのか唇を相手のそれで塞がれてしまう。いきなり過ぎて呼吸をするのを忘れてしまったものの、それでも離す気は更々無かった。唇から少しでも伝われば良いと思う。アルヴィンが、ミラにどれだけ愛されているか。それを思い知ればいいと思う。
君以上に君がすき
(幸せになっても良いんだよ。早く気付ければいいな)
(title:たとえば僕が、様)
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幸せになっちゃえよ、アルヴィン。
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