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お酒の力は偉大だね(ヒュパス)
(現パロ)



ぴんぽーん。
それは自宅でまったりと、バラエティー番組を見ながらくつろいでいる時だった。何の前触れもなく唐突に鳴ったインターホンに、誰だろう?何て首を傾げながら、パスカルは身体を預けていたソファーから起き上がる。ろくに確認もしないでそのまま玄関の扉を開ければ、そこには見知った顔があった。



「あれっ、ヒューくん!遊びに来たの?」

「‥パスカルさん」



事前連絡もせずに珍しい事もあるものだ。だがパスカルは、そんなことを気にする人物ではなかった。更には好きな人の来訪とあっては、嫌な気分になる筈もないのである。ニコニコしながら、上がりなよ〜と手招き。しかし何故か返答せず黙っているヒューバートに、直ぐ様「あっ」と冷や汗をかいた。ついさっきしでかしたことを早くも後悔しつつ、両手を顔の前で合わせる。常日頃から彼に口を酸っぱく言われている言い付け(インターホンが鳴ったらまず誰が来たのか確認してから開けなさい!)をついうっかり忘れてしまっていたのだ(因みにこのついうっかり、は頻繁に起こってしまっている)。よってこれからめちゃくちゃ怒られる。頭の中はヤバいどうしよう…である。



「ごめん!次は気をつけるよ!」


だからお説教は勘弁して〜なんて両手を祈るように合わせて必死に頼み込んでみるものの、相変わらずの無反応だ。スルーされているのか。いや、もしかしたら物凄く怒りまくっているのかもしれない。だがまあ今回も自分の不注意なのだし叱られても仕方ない…今更ながらにそんな覚悟を決めて、未だに俯くヒューバートの顔を恐る恐る覗き込んでみる。



「…ヒュー…くん?」

「‥」


…あれ?
其処には怒り狂っている訳でなく、真っ赤な顔でぼんやりとしている青年が居た。不思議に思いもう少し近付いてみれば、アルコールの匂いが鼻を掠める。…酔っ払ってる?



「大丈夫?」

「…ん…」

「ありゃりゃ。珍しい事もあるもんだね」



酔っ払ってフラフラの彼をそのまま玄関に放置しておく訳にはいかないだろう。取り敢えず肩を貸して、リビングまで連れていく事にする。よくよく考えれば、来るときはいつもメールなり電話なりで事前連絡を寄越す律儀なヒューバートが、それをせずに唐突に来るなんてよっぽどのことがない限りないのだ。確か今日は教官達と会う予定があると言っていたから、その帰りにバーにでも付き合わされたのかもしれない。



「ほい、今うちバナナジュースしかないけど」

「…どうも…」

「あはは、べろんべろんだね。でもなんか新鮮だな〜」



差し出したバナナジュースに、「これしかないのはいつもじゃないですか」というツッコミも入れずに素直に受け取られて、あまりの可愛さについ笑ってしまった。

思えばヒューバートが成人してからは、アスベルと一緒によく教官に連れ出されるようになった。だがこんなになるまで飲んでくるようなことは、今までにもあったのだろうか。彼は完璧主義なところがある。故にパスカルが今までに見たことがない姿だった。それに少しだけ、寂しいなと思ったりして。



「…パスカルさん、」

「んー?」



何か言いかけたのだが、続きは何やらもにゃもにゃと口を動かしているだけで全く分からない。こんなに無防備で可愛いヒューバートは貴重で、故に抱き付いてみようかとも思った。が、それにより気分が悪くなったら困るので、取り敢えずはこちらもバナナジュースを飲みながら様子を見ることにする。

…それにしても、こんな状態でよくこちらの家に来れたものである。自分の家に帰らない辺り、多少はこちらも頼りにされていると思っていいのだろうか。



「‥ヒューくんがこんなになるなんて珍しいよね。なんかあったの?」



アルコールが入っている分、もしかしたら普段よりも素直に言ってくれるかもしれない。そんな淡い期待を込めて投げてみた言葉だった。理由がたまにははっちゃけたかった、だったらいい。だがもし悩み事がある為にこんなことになっているのなら、それは吐き出して欲しいと思った。ただでさえ、ヒューバートは真面目で抱え込むタイプなのだ。そんな彼を傍で一番見ているパスカルは、常日頃から少しでも支えてあげたいと考えていた。もっとも、それがちゃんと出来ているかは彼女にもはっきりとは分からないことなのだけれど。


そのまま彼の顔をじっと見つめていると、不意にヒューバートが泣き出しそうな顔をするものだから、びっくりしてジュースを零しそうになってしまった。



「‥パスカルさんは、どうして…僕を選んだんですか」

「へ…?」

「どうして、僕を…選んでくれたんです」

「ヒューくん、」

「パスカルさんを、僕は幸せにしたいのに、」



ポツリと此方に呟いた言葉は、注意して聴かなければ聴きそびれてしまう程小さく頼りない響きを持っていた(もしかしたら独り言のつもりだったのかもしれないが)。薄らと涙の膜が張る青い瞳に、思わずパスカルも辛い表情を浮かべて顔を伏せる。

もしかして。否、もしかしなくても。不安にさせてしまった。他でもない、あたしが。支えてあげたいと思うのに、その自分が悲しい思いをさせていた。その事実が、パスカルの胸を容赦なく抉り視界を揺らす。だが今辛いのはヒューバートであって、自分が悲しい表情をするのは違う筈だ。グッと口元に力を入れて泣きそうになるのを我慢すると、パッと顔を上げて真っ直ぐにヒューバートを見つめる。



「そんなの決まってるじゃん。ヒューくんが好きだからだよ」

「パスカルさ…」

「ねえ、あたし他の人じゃやだよ。ヒューくんじゃなきゃ、やだよ」



ねえ。
だから、そんなこと言わないでよ。そのままギュッと抱き付いてみれば、やっぱり涙が零れてしまった。泣くのはあたしじゃない、そう思うのに止まらない。





「‥ごめん。でもほんとにあたしヒューくん好きだから!信じて、」




ごしごしと乱暴に涙を拭いヒューバートから離れようとすると、不意に腕を掴まれ──驚いて目を見開けば、そのまま口付けられた。何度も角度を変えて繰り返されるそれに漸く気が済んだのか、今度は思い切り抱き締めてくる。それにはあまりに突然のこと過ぎて、さっきまで止まる気配すらなかった涙も止まってしまった。




「ちょっ…ヒューくん苦し、」

「僕も好きです…貴女が」

「!」

「ずっと一緒に居たい」

「…え、えっと、」

「…ダメですか」

「だ、ダメじゃないけどさ…」




また降ってきた口付けと、プロポーズのような言葉を間近で言われてしまった為、珍しく顔を赤くしたのはパスカルだ。こんな情熱的に迫ってくるなんて、やっぱりお酒の力って凄いなあなんて関心しつつ、朝になったらヒューくんどんな反応するんだろうなんて想像するだけで面白かったりして。頬の熱はまだ取れないままだったが、ついつい笑ってしまった。




「でも…あたしで良いの?不安になっちゃったんでしょ」

「すみません…僕に自信がなかっただけです。でも…僕には貴女しかいないから」

「え、ヒューく、んっ、ちょっと、待ってってば!」

「‥パスカルさん」




その言葉が、素直に弱音を吐いてくれたことが嬉しかった。ヒューバートにはパスカルが必要で、パスカルにはヒューバートが必要。それだけ分かれば充分だと思った。きっと彼が居れば大丈夫。不安も悲しい気持ちも全部たくさんのキスに飲み込まれてしまって、今なら二人でどんなことでも乗り越えていけそうで、我ながら単純だなあなんて。取り敢えず未だに口付けてくるヒューバートを軽くたしなめつつ、酔いが冷めたら先程の返事の言葉をどう伝えようかと呑気に考えるのだった。





ちょっと不安になりまして。
(大丈夫ちゃんと好きですよ)




(あ、おはよーヒューくん)
(おはようございま…って、うわあああ!!何でパスカルさんが此処に!!?)
(何でって、ここあたしん家だよ)
(え、じゃあ昨日…き、記憶がない…)
(かーなりがっついてたよヒューくん)
(うわあああなんてこと言うんですかやめてください!!)




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きっとガリードさんのこととかで、不安になっちゃったんです。


あきゅろす。
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