淋しがりで甘えたがり(アルミラ)
(現パロ夫婦)
「ほら、ミラ様しっかり」
「…うう…」
「ったく。だから飲み過ぎんなよって言っただろ」
酔っ払いとの帰り道。
酒場から出て自分で歩ける!と散々駄々をこねた(何故だか今日はいつにも増して意味の分からないところで意地があったようだ)クセしてヘロヘロの足取りの女性を歩かせる訳にもいかず、結局はミラをしっかり窘めて、当初の予定通り背中に乗せている次第である。こんなヘロヘロになっている彼女だが、実はアルヴィンが飲んだ量の半分以下程度しか飲んでいない(無論度数は低めだ。ミラに任せると身の程を弁えずに高めなものを飲もうとする為、こちらが責任を持って選んでいる)。滅法アルコールに弱いクセに、飲みたがるのだから困ったものである。
「今度からこっそりノンアルにすっかな」
「…ん…」
「眠い?」
「…起きて…る…ぞ」
「んな蚊の鳴くような声じゃ説得力ねェよ。心配しなくても落としゃしねーから、寝とけって」
散々騒いで疲れたのだろうか。もうだいぶ、背中の彼女は静かだ。昼間はまだ日差しは強いが、もうだいぶ夜は涼しく肌寒くなってきている。だが今日は程よくアルコールが入っているのと、背負っているミラのお陰でさほど気にならなかった。
後ろから聞こえる寝息と、虫の声に耳を傾けながら、ふと空を見上げた。雲一つ無い満天の星空が広がっている。…もう少し人工的な明かりがある場所から遠退きさえすれば、もっと綺麗に見えたかもしれない。この時だけちょっぴり、都会的なこの街が恨めしく思えたりして。
(結婚しよう、アルヴィン)
あれはちょうどこんな風に星がよく見える夜だった。飲み屋からの帰り道、隣を歩く彼女がふと立ち止まって。次に届いた言葉は、アルヴィンを驚かせるには充分で。まだ酔っているのかと思ってどう切り返すか迷っているうちに、左手を握られて。その温かさに、情けない話だが何故か涙が零れてしまった。ずっとずっと、求めていたものだったのだと思う。
(普通それ俺の台詞よ?)
(ふむ…だが私はあくまで、自分の気持ちに従ったまでだ)
(おたくって…ほんとに)
(ん?)
自分でいうのもなんだが、ろくな育ち方をしていないのだ。一匹狼を気取って、本当は救いようのない馬鹿で餓鬼で。心の何処かにポッカリと空いた穴を埋めようと藻掻けば藻掻く程に、傷は増えていくばかりで。愛して欲しいクセに傷付けることしか知らない。寂しくて、助けて欲しくて。
「ほんと、ズルいよな」
ミラと出会ってそんな自分が、少しだけ前を向けた。変われた…これからも変われる。そんな確信がある。荒んでいた頃は自分が結婚をするなんて考えたこともなかったし、一生する気もなかったのに。彼女を手放したくないと思った。そんなことは初めてだった。
「なあ、ミラ」
あの日。
本当は言い出すのが、拒絶されるのが恐かったんだ。自信が持てなかったアルヴィンのことは分かった上でのプロポーズだったのかもしれない。夫婦となった今は、もう遅い言葉なのかもしれないけれど。
「なあ。ずっと俺の傍にいてくれよ」
(これからも、ずっと)
情けなくてもいい。
届かなくても構わない。
ただどうしても、あの日言えなかった言葉を自らの言葉で言いたかった。寝ている妻に向かって呟くだなんて、小心者もいいところだけれど。
「…ああ。お前の傍に居るよ」
返ってくる筈のない言葉が、耳元にそっと響く。一瞬の間のあと、恥ずかしさのあまり寝たふりしてやがったな、なんて憎まれ口をつい叩いてしまったけれど、胸の辺りは温かい。
「いつから起きてたんだよ」
「ついさっきだ」
「‥」
「アルヴィン、」
(お前がお前だから、好きだよ。だから焦らなくても良い)
だから、なんでそういう事を恥ずかしげもなく言える訳?なんて続けた言葉も、自分でも分かるぐらい照れが入り混じった声色で。やがて聞こえてきた穏やかな笑い声に込み上げる愛しさに、『幸せってこんな感じなのかね…』なんてぼんやり思いながら、帰路をゆっくりと歩くのだった。
寂しがり屋は夜空に消えた
(title:たとえば僕が様)
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