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*大丈夫、幸せだったよ(アルミラ)
※そこまで暗い話ではないですが、若干死を匂わせる描写注意。




自宅のソファに一人。
ぼんやりと、暖炉でユラユラ揺れる炎を眺めていた。ジュード達と旅をしていた頃が懐かしい。あの頃よりも大分白髪が、手や顔も皺が増えた。気付けば、初めてローエンと出会った時の彼の年をとうに追い越してしまっていた。

ジュードとレイアは、何だかんだありつつも無事ゴールインして。二人の間には子供がおり、アルヴィンにとっては(そこまでジュード達と歳は変わらないが)孫みたいな存在だ。結局独り身で居た自分には彼らが少しばかり眩しく映るのは、仕方ないのかもしれない。ローエンは最期まで羨ましいぐらい背筋がシャンとしたままで。彼の歳を追い越した今、当時のローエンと同じく背筋が伸びるかといえば否だ。エリーゼも所帯を持って、立派に母親にもなって。いい歳して未だに説教されることもある(おっと、ここは笑うところだ)。


精霊の主様は、どう思うのだろうか。情けない、と苦笑いされるかもしれない。姿が見えることも、声が聞こえることもない彼女に、何度心中で語り掛けてきたのか。アルヴィンはもう数えることを止めてしまっていた。



(なあ、信じられるか?)
(アイツら、立派に親やってんだ)
(俺?俺は所帯を持つとか、そんな柄じゃないだろ。……ちっ、何処までもクセになってるな。嘘)



あの日別れてから、ずっと。
ずっと、忘れられない。頭にこびり付いたまま、片時も思い出さない時は無かった。彼女に対して酷いことを散々やってきた。そのクセ失うのが恐かった。この世で一番憎くて、この世で一番、



「好きだった」



ポツリ。
今までずっと言えなかった筈の言葉なのに、何故だろうか。今はするりと喉からなんの躊躇いもなく出る。そして一度口に出してしまえば、胸の奥にしまい込んだ気持ちごと溢れ出し、目の前がユラユラと揺れ始めてしまう。



「好きだった。なあ、ずっと好きだったんだ」



強く憧れた。
その綺麗な髪も赤い瞳も
強い意志も人も精霊も愛し護ろうとする優しいところも



(ミラ)



彼女を忘れて結婚なんて、出来る筈が無かった。




「…好きだ。好きなんだよ、」




届くはずがない言葉だと分かっているのに止まらない。涙も留まることを知らず…どうすれば良いのだろうか。まるで駄々をこねている子供のようで、情けなくなる。




「――…アルヴィン」




片時も忘れたことのない、懐かしくて凛とした声が聞こえた気がして。一瞬、時が止まった。ハッとして思わず周りを見渡せば、綺麗な金の髪を持った女性が、ソファの近くで真っ直ぐにこちらを見つめている。

呼吸をするのを、忘れてしまった。




「…ミラ、さま」

「私が見えるのか、アルヴィン」

「‥なんで、」

「…ふむ」



少し複雑そうな顔をして、あの頃となんら変わらない姿の彼女は此方にゆっくりと近付いてくる。確かめるようにそっとミラの頬に手をやれば、こそばゆいのか目を細めて。触れられる。温かい。幻覚では、無いのか。そうはっきりと感じ取れば、またぼろぼろと零れる涙。情けないとか、女々しいとか、そんなこと今はどうでも良かった。




「泣くな、アルヴィン」

「…んなの無理だって」

「仕方のない奴だな」




柔らかく笑って、小さな子供をあやすかのように頭を撫でてくる。ああ、変わらない。本当にミラは今此処に居る。思わず抱き寄せれば、されるがままに腕の中に居てくれることが堪らなく嬉しくて。



「なあ、聞いてくれよ。ミラ」

「ん?」

「俺、おたくのこと好きだったんだよ」

「…そうか。先程もそう言っていたな」

「ちょっ、ミラ様いつから居た!?」

「結構前からだな」

「〜〜〜っ、」




涙声でぐずぐずの顔で、実は告白を聴かれてて全く格好がつかなくて。優しく微笑みを返されて、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだ。それでも今は、ミラを離すつもりはなくて。




「私も好きだよ。アルヴィン」




耳元で聞こえる温かな響きを持つその言葉は、涙を止めるには充分過ぎるぐらいの威力を持っていて。アルヴィンは目をぱちくりとさせたあと、ついつい肩を落としてしまう。



「…はあ。あと60年ぐらい早く逢えてたら、ちゅーの一つでもしたのにな」

「ふふ、意外にお前は年齢を気にするのだな」

「そりゃそうでしょ」

「私は気にしないよ。いくつになってもお前はお前だ、アルヴィン」

「‥ミラ様って何でそんなに格好良いの」

「適うと思っていたのか?」

「いやいや、滅相もない」




最期にいい思いさせて貰ったよ。そう言えば、ミラはそうか…とだけ呟く。どことなく悲しそうな彼女の額に、口付けを一つ。




「んな悲しい顔すんなって。おかげさまで、随分長いこと生きたし」

「…アル、」

「なあ。俺が寝るまで傍に居てくれねェ?」

「……ああ。ずっとお前の傍に居るよ」




ミラのその言葉に、口元に笑みを浮かべる。(嗚呼、散々酷いことばかりやってきた人生だったのに、最期にこんないい思いをして良いのだろうか。罰が当たらないだろうか。)もうだいぶ前から眠気がきていた。でもきっと大丈夫だ。怖くはない。傍で手を握ってくれているミラが居るから。でも意識が途切れてしまうその前に、一つだけ。言わなければきっと後悔してしまうから。もし来世なんてものがあるのなら。またお前を、




「ミラ。愛してるよ」





幸せに一番近い場所で君の夢を見る




(title:たとえば僕が 様)


あきゅろす。
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