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大丈夫だよ(アルミラ)




特に大した理由なんて浮かんではこない。ただ買い出しから帰って来て、荷物をジュードに渡してから宿の各自割り当てられた自室の扉を開けただけで。途端に目に入る眩しい髪に、衝動的に身体が動く。気付けば形見の銃すら放り投げ、後ろから抱き締めていた。


ミラの座っていたソファがぎしりと鳴く。一瞬驚いたように目を見開き、此方を振り向いてから彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。



「おかえり、アルヴィン」

「…ただいま」

「どうした」

「…」



その言葉が子を慰めるような、甘やかすような――とにかく優しい響きで。不意に男は泣きたくなる。それを隠すかのように彼女の肩に顔を埋めると、擽ったいのか身を捩り、穏やかな声色で小さな笑い声が聞こえる。どうした、なんて聞かれても自分でも分からないのだから、答えられる筈も無かった。



「これは…甘えん坊、というやつだな」

「いや、26歳のこんな美男子捕まえて甘えん坊って」

「違うのか?」

「…分かんねーけど」



ミラの姿を見たら、様々な上手く言葉に出来ない気持ちが溢れたような気がして。衝動のままに抱き締めたら、とてつもなく安心している自分が居た。これじゃあまるで母親に甘えるガキじゃないかと内心苦笑い。そんな自分すら包み込むミラには、とてもじゃないが適うはずもなく。最終的に此方に身体ごと向き直り、本格的に子供を慰めるかのように背中をぽんぽんと優しく叩かれては…ダメだ、つい笑ってしまった。




「ふふ。笑うとは失礼だな」

「いや、やっぱミラ様には適わないな〜って思ってさ」

「最初から理解していただろう?」

「流石、力強いお言葉で」




額、瞼とそっと口付けを一つずつ贈れば、幸せそうに笑う。散々酷いことをして来た自分が言う台詞じゃないが、護ってやりたいなあと思ってしまう。他でもない、自分自身で。



「アルヴィン」

「ん?」

「大丈夫だ。私は此処に居るよ」

「…なに、それ」

「お前がそんな顔をしているからだ」



そんな顔ってどんな顔よ?
そう続ける前に視界が歪んで見えなくなる。ああもう、なんでそんなに格好良いかなあ。とても顔なんて見せられなくて、首元に顔を埋めてやった。




(裏切ってばっかだった俺に言う台詞じゃないだろ。馬鹿だなあ。大丈夫だなんて、何の根拠も無いのに)
(根拠ならあるさ。お前が護ってくれるのだろう?)




ふいに寂しくなっただけ




(title:たとえば僕が様)


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