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好きだからですよ悪いですか(ヒュパス)
(学パロ)




‥悔しい。
実に情けない。
まさかこんな日に熱を出して、床に伏すことになるだなんて。

朝起きた時に感じた身体の怠さと喉の痛み。それだけならまだ何とかなったのだが、加えて高熱の為か目の回るような目眩。これにはたまらずヒューバートは布団に再び寝そべった。幸いにも学校は休みだったのだが、今日は予定が入っているのに。ちらりと見たカレンダーには、今日の日付に大きく丸が書かれている。密かに想いを寄せる相手―――パスカルと、前々から出掛ける約束をしていたのだ。



(せっかく、パスカルさんと予定が合う日が出来たのに)



大学生である彼女と高校生である自分とでは、中々予定が合わない。その中で漸く見付けた日が今日だったのに。それなのになんて不運なのだろう。ヒューバートは痛む頭に手を当てながら、先程までの会話を思い出していた。



(すみません、パスカルさん)
(いいっていいって〜。きっと疲れが出ちゃったんだよ。ゆっくり休んで?ヒューくん)
(…は、い…)



こんなことを思うのは間違っている筈だ。寧ろ体調を崩したこちらが悪いのに。それなのにパスカルのそのあっさりとした返答に、ひどく落胆してしまった自分が居た。今日を楽しみにしていたのは…会いたかったのは自分だけなのではないか、なんて勝手な考えが頭を過る。体調が悪い時は精神的に弱くなるというが、どうやら本当にそうらしい。どんどん思考が悪い方に向かっていく気がして、ヒューバートはそれを振り払うように固く目を瞑る。もう寝てしまえ。寝て起きれば気分も少しは違う筈なのだから。



* * * * *


それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。台所の辺りからする物音で、ヒューバートは意識を浮上させた。一人暮らしの筈なので、自分が其処に居ない限り物音がするだなんてそんなことはあり得ないのだ。あるとすれば兄であるアスベルか、或いは―――そこまで考えて、思考が停止する。台所の方からひょっこりと顔を覗かせた予想外の人物に、思わず目を見開いてしまった。呼吸が、一瞬止まってしまったと思う。



「パスカル、さん…?」

「あっ、ヒューくん起きた?色々買ってきたよ〜」

「どうして、」

「ほへ?ああ、お見舞いってヤツだよ。シェリアがヒューくん家教えてくれたからさ」



看病とかシェリアのが得意そうだしお願いしたら、今日は忙しいから行けないって言っててさ。そう言って何時ものように人懐こい笑顔を浮かべながら、スーパーの袋の中身を取り出している。なるほど、自宅を知らない筈のパスカルがここに来たのは、シェリアの手回しがあったからなのか。それでもやはり、会えて嬉しく思うのは想い人故。そして案の定そこから出て来たバナナに、ヒューバートは小さく口元を緩ませた。



「…これ、貴女の好物じゃないですか」

「風邪の時にはバナナでしょ?栄養満点で、直ぐ元気になるよ」

「りんごが一般的ですけどね」

「え〜、ヒューくんバナナ嫌い?」

「嫌いでは、ないですが」

「じゃあ、良いじゃん。それに包丁とか使うりんごより手軽に食べられるしね」




まさかそれも考えた上で…いや、あのパスカルさんがまさか。そんな若干失礼なことを考えるヒューバートのことは知る筈もなく、食べれる?と此方の顔を覗き、パスカルが首を傾げながら聞いてくる。その仕草が可愛くて若干頬が熱を持ったが、今は熱のせいだと言って誤魔化せるのでそれは有り難かった。だが残念ながら、今は食欲がない。



「すみません…食欲がないので」

「ん〜。でもさ、ちょっとぐらい食べないと薬飲めないよ?」




確かに。
それもそうである。薬が飲めなければ、治るものも治らない。せっかくパスカルが自分を気遣って持って来てくれたというのに、これじゃあ小さな子供のようじゃないか。ヒューバートは自分が言ってしまった極小さな我が儘を直ぐ様後悔し、ではバナナ一本ぐらいなら…とパスカルに伝えようとした…のだが。



「あむっ」

「…ちょ、パスカルさん?」



渋るヒューバートに何を思ったのか、パスカルが手に持っていたバナナに一口かじりついてモグモグと口を動かしているではないか。ああ、早く自分が食べないものだから、パスカルさんが自身の食欲に勝てなかったに違いない。というか見舞いの果物を持ってきた本人が食べるだなんて、相変わらずこの人は変わって…いや今のは自分が悪いのか?元々頭痛がしていたのに益々痛くなってきた気がして、ヒューバートは額に手の甲を押しあてた。ヒューくんどしたん?なんて声が聞こえたが、何と答えれば良いのやら。取り敢えずは「どしたん?じゃありませんよ」と返しておいたが。



「ほ〜ら、このバナナ甘くて美味しいよ〜?だからほら、ヒューくんも一口!」

「…え、」

「んー、やっぱりダメ?CMみたいな効果があるかと思ったんだけど」

「は、え…そ、それは…」

「へ?蝿?」

「ち、違いますよ」



どうやらバナナを一口だけ噛ったのは、此方の食欲を促す為だったらしい。思いもよらぬ気遣いに胸の辺りが温かくなるが、正直そのことよりもヒューバートの頭を埋め尽くす、一つの問題点があった。そのバナナは先程パスカルが噛ったのだ。つまりは、それを食べてしまったら彼女と間接キスをしてしまうことになる。片思い中の女性故に尚更、意識するなというほうが無理である。頬が風邪のせいか自分でも分からなくなるぐらいに、熱くなってしまった。



「ほ〜ら、ヒューくん。美味しいよ〜?」

「そっ、それは、分かりますが…」

「あっ。…もしかして、ヒューくん……」

「……え…」




なんだろう、その真剣な表情。
あまり見たことのない、真面目な顔をして見つめてくるものだから、もしや此方の気持ちがバレてしまったのだろうかとヒューバートは内心焦ってしまった。何故ってそれはダメだ恥ずかし過ぎる!気持ちを伝えるにはまだ、ヒューバート自身の覚悟が足りないのである。



「‥薬苦手?」

「なっ、なんでそうなるんですか!」



だがまあ、案の定というか何というか。それは杞憂に過ぎなかったようである。ま、まあそうだろうとは分かっていましたとも。薬が苦手と思われるのも子供っぽくてかなり嫌なのだが、間接キスが恥ずかしくて無理です、なんて言える筈もなく。この際仕方のないことなのかもしれない。



「じゃあなんで渋るのさ〜〜」

「…そ、それは……」

「…ぶー」

「わ、分かりました食べます!食べます、から…」



納得がいかない為か、パスカルが珍しく拗ねたように頬を膨らませてしまった。それにはたまらず食べると返すが、徐々に萎んでいくように声が小さくなってしまったのは、これからの行動が恥ずかし過ぎるからだ。情けないと自分でも思うが、こればかりは中々治りそうにない。



「…」

「どう?美味しい?」

「……ええ、まあ…」



覚悟を決めて、一口。
正直パスカルからの『はい、あ〜ん』と『間接キス』のダブルパンチで違う意味でフラフラしてしまい、そんな直ぐに感想を求められても困る。だが極至近距離でふわふわとした笑顔を浮かべられたものだから。まあいいかとついつい口元が緩んでしまった。




「…パスカルさん」

「ん?」

「来て下さって…ありがとうございます」


穏やかな空気の中、普段は素直に言うことが出来ない感謝の言葉を、ぽつりと呟いた。その言葉に、パスカルはゆっくりと笑顔になり―――



「あ、別にヒューくんの為じゃないよ」

「え」



このパスカルの言葉にはピシリ、と身体が石になったかのように固まってしまった。何だろう、今凄く泣きたい。何でそんなことを、今わざわざ満面の笑みで言うんだ。酷過ぎるじゃないか。ヒューバートが肩を落として顔を伏せると、パスカルは言葉を続ける。




「あたしがヒューくんを甘やかしたかっただけだからさ」




甘やかすとはなんなのだろう。やはりこの人にとっては、年下の子供なだけなのだろうか。そればっかりは、パスカル本人だけにしか分からないが。だから、ヒューくんは何も気にしなくて良いんだよ〜なんていつも通りの暢気な口調に、思わず下げた顔を上げてしまう。若干涙が滲んでしまっていたが、バレていないだろうか。全く、紛らわしいにも程がある。いつもいつも、言葉が足りない。自分はこの人の言動に一喜一憂してばかりだと、ヒューバートは思った。今の言葉だって、こんなにも嬉しく思ってしまうのだから。




(ズルい人だ)




でも実は、そんなところも好いてしまっていて嫌いになれない自分も自分だが。



「よーしっ!ヒューくんが寂しくないように、もうちょい居てあげるよ」

「何ですか、それは」

「えーっ、自分で気付いてなかったん?電話かけてきた時、すっごく寂しそうだったよ。何となくだけど」

「な…っ」

「だから、来ちゃった」



なんだ、それは。
彼女は一体僕をどうしたいのだろうと頭の片隅で考える。熱以前にもう嬉しいやら恥ずかしいやらで、どうにかなってしまいそうだ。


君の声が聴こえた気がした
(だから、来ちゃったよ)



(早く元気になって、そしたらまたどこか行こうよ)
(…考えておきます)
(あはは、素直じゃないなあ〜)



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意外に難産だった…。

ヒュパスへの3つの恋のお題:君の声が聴こえた気がした/ドキドキして眠れない/はじけとんだ理性 http://shindanmaker.com/125562


あきゅろす。
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