ねえ、呼んでよ(ヒュパス)
「あたしね。ヒューくんに名前呼ばれるの、好きだよ」
至近距離に、琥珀色。
唐突に、そんなことを告白された。まさかそんな風にパスカルが思ってくれているだなんて、予想すらしていなかったヒューバートは、驚きを隠すことなく目を見開いた。彼女の琥珀色の大きな瞳に、惚けたような顔の哀れな男が一人映る。パスカルという人物は元より自分の予想の斜め上をゆく人だし、コロコロと変わる会話にも大分耐性はついていた筈なのだが……まだまだ力不足なのか。ヒューバートは嬉しさで緩みそうになる口元に力を入れて必死に耐える。これ以上何か言われてしまったら、間抜けな顔になってしまいそうだった。
「は、はあ…」
「はあ、じゃなくて。ホントだよ?」
口元の緩みを押さえるのに一生懸命で、更にはどう反応したらいいか分からなかった(嬉しいが、素直に認めるのは恥ずかしい)ヒューバートが、必死に絞りだした言葉だったのだが。やはり通じなかったようだ。嘘と思われたのだと解釈したのか、パスカルは若干不服そうである。
「い、いえ。信じてはいます」
「なんか引っ掛かるなあ。何が問題?」
「問題という訳では…。ただ、何故いきなりそのような事を言うのかと…」
「んー、深い意味はないよ。そのままの意味。ヒューくんに名前を呼ばれるのが好きなんだよ。ダメ?」
「ダメじゃ、ありませんが」
「でしょ?」
だからさ、と続けられたパスカルの言葉に、その悪戯を思い付いたかのような表情に。あまり素直に認めたくはないが、一瞬見惚れてしまった。顔が赤面しているかもしれない。
「呼んでよ、ヒューくん。名前」
「えっ…今、ですか?」
「今じゃなきゃいつ呼ぶのさ〜〜」
早く早く、と子供のように急かされる。
名前を呼ぶ事ぐらい構わない筈なのに、いざ呼んでと言われてからそれを口に出そうとするとかなり恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。だがしかしパスカルは、今か今かとキラキラした瞳でこちらを覗き込んで待っている。そんな彼女の期待を、裏切るだなんて最初からヒューバートには出来ないことだった。
「ぱ、パスカル…さん…」
「ん?なーに、ヒューくん」
「な、何と言われても困ります!」
「あははー、冗談冗談!」
やっぱりヒューくんに名前呼ばれるの、好きだなあととびきりの笑顔で言われる。流石に僕もパスカルさんに呼ばれるのは、嫌いじゃないですよとは言えなかったけれど。
「…貴女が望むなら、これからも呼びます。何度でも」
「わーい、ヒューくん大好き!」
「…っ、」
「ずっと、あたしの名前呼んでね!」
真っ赤になってしまったのが自分でも分かって、全く意味はないのに思わず口元を手の甲で隠す。人の気も知らないで当の本人はからからと笑っているのが悔しい。一生この人には勝てそうにないと、改めてそう実感したのだった。
君が望むなら何度でも
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ヒュパスへの3つの恋のお題:君が望むなら何度でも/ただ傍に居てくれたらそれだけで良かった/百年の恋って言うけれど http://shindanmaker.com/125562
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