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甘いのはデフォです(ヒュパス)





旦那さまの久しぶりの非番。
せっかくだから何処かへ出掛けましょうか、と言ってくれた優しいヒューバートの言葉は有り難く受け取っておくとして。それもいいけど、今日は家でゆっくりしたいと告げたのは、パスカルのほうだった。その言葉に一瞬ヒューバートはきょとんとしたものの、直ぐに柔らかな笑みを浮かべて頷く。要は二人で一緒の過ごす、ということが大事なのだ。場所はどこだって構わない。それは互いに思っていたことなので、問題はないだろう。

そしてそうやって何気ない言葉で(自分だって連日の研究で疲れている筈なのに)こちらを気遣う妻に、キュンとしたのは秘密だ。バレたら死ぬ程恥ずかしいから絶対に言わないと、ヒューバートは一人心に誓った。



家でゆっくり、というのも実に久しぶりのことだった。ソファに腰掛けながら小説を読み耽る。そして時折ちらりと妻を見れば、彼女もまた本を読んでいた。恐らく自分には全部は理解が出来ない難解な物だ。難しい専門用語がびっしりと並ぶそれを、するするとまるで絵本のように読み進める様は流石といったところだろうか。



「…ねえ、もしバナナパイとバナナをデュアライズしたら何になるのかな?バナナバナナパイ?」

「……えっと…バナナが通常の倍入ったパイなので、ダブルバナナパイじゃないですか?」

「そっか!」

「……」



いきなり何を言い出すかと思えば。読んでいる本の内容と全く関係ないと突っ込みを入れても無駄だと分かっているので、敢えて何も言わない。秀才であると同時にこんな天然で抜けたところもあるところが、パスカルの魅力の一つだろうとヒューバートは解釈している。


さて。
可愛らしい妻の笑顔を受け取ったところで、此方も小説を読み進めなければ。とヒューバートは本に視線を戻したのだが。



「パスカルさん?」

「ん?どしたん?」

「…狭く…ないんですか」

「あたし結構狭いところ好きだよ。フィットしてる感じが、なんか落ち着くんだ〜」

「…そう、ですか…」



ソファに浅く腰掛けていたのが悪かったのだろうか。ソファとヒューバートの隙間に、何故かパスカルがうつ伏せで寝転んでしまっているのだ。出会ってからずっとパスカルは猫っぽいと思っていたが、これでは本物の猫みたいじゃないか。背後で妻はふにゃ〜、なんて意味のない声をあげている。読書はどうしたのかと思ったが、とっくに読み終えてしまったようだ。テーブルの上に先程までパスカルが読んでいた本が置かれていることに気付いて、ついため息をついてしまう。



「あーあー、幸せ逃げちゃうよヒューくん」

「誰のせいですか」

「はて、誰だろね?」



わざとらしい。
パスカルは元々嘘がつけない質なのだ。それを分かっていながらそんなことを言う。別に喧嘩をするつもりもないし怒ってなんていないけれど、しかしこのまま黙って退いてしまうのは悔しい。ならば、と言葉に出さない代わりに背後に少し体重をかけてやることにした。



「ヒューくん重い…」

「可笑しいですね。パスカルさんは狭いところは好きだと先程聞きましたが?」

「ううっ、ヒューくん意地悪だ!悪かったってば!」

「…別に悪くは…」

「う?」

「い、いえ…」



悪くは、ない。
寧ろ嬉しい。だがしかし困ったことに、本の内容が全く入って来なくなるのだ。集中出来ない。いやしかし久しぶりの休みだ。パスカルさんを構うのも…とヒューバートが考えを巡らせていると、背後から漸く脱出したパスカルが、諦めたのか2冊目の本に手を伸ばしているのが目に入った。そのしょぼん…とした表情で、ヒューバートは今日の過ごし方を決めた。本はまた今度にし、構ってちゃんを精一杯構ってやろうと。



「パスカルさん」

「ん?」

「その…先程ため息をつくと幸せが逃げる、と言いましたね」

「うん」

「つまり僕の幸せは先程のため息の分だけ、逃げてしまったと」

「悪かったってば」

「そう思うなら、責任を取って下さい」




いつの間にか近付いた距離。
自然に視線がかち合う。見ればヒューバートは、頬を真っ赤に染めていた。それに対しパスカルはクスリと笑う。結婚して暫く経つが、未だに初々しい。そんな夫が、好きだったりするのだが。



「ヒューくんってさ、」

「…何ですか」

「素直じゃないよね」

「……ほっといて下さい」

「やだよ。あたしそういうヒューくんも好きだからさ」



唇に軽いキスを贈ってからどう?幸せ?と問うと、更に真っ赤になってしまった。自分が言い出したことなのにそんなに照れるだなんて、可愛いところもあるものだとパスカルは思う。拗ねてしまうから絶対に言わないけれど。




「…目、閉じて下さい」

「えーっ、まだ足りない?ヒューくんのえっちー」

「なっ、……い、いいから早く閉じて下さい」

「はーい」



ハグをして、笑ってじゃれるように拙いキスをする。こんな時間が大好きだ。それはきっと互いに同じで。あたたかくて幸せで、涙が出るぐらいに心が満たされていく。好き。大好き。きっと言葉じゃ足りないぐらいに。



「好きです」

「知ってるよー」





ある日のオズウェル家
(幸せ過ぎて死にそうだ)





「ね、お腹空いたらさ。外に材料を買いに行こうよ」

「…?…まだ材料は家にあると思いますが…」

「分かってないなあ。ヒューくんと一緒に買い物に行きたいの」

「!」



本日何度目かの『胸キュン』だ。なんだこの可愛い生物は。ええそうですね一緒に行きましょう!と即答しそうになるのを必死に耐え、ヒューバートは仕方ありませんねと苦笑いを浮かべるのだった。



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夫婦になるとばかっぷるになるな我が家のヒュパスは…


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