大好きでしたB(ヒュパス+アスベル)
「ヒューくん、カッコいいなあ」
おめでとう、お幸せに!なんて周りからの声をぼんやりと聞きながら、ただこれから夫婦になる二人を見つめていた。綺麗なお嫁さんと、カッコいいヒューくん。二人で並んで歩く姿は、眩しいぐらい様になってたから。悔しい程お似合いだと、パスカルは苦笑した。
あれから早いもので、もうヒューバートの結婚式当日になった。砂漠で見付けたお気に入りの緑掛かった服を着て向かった鏡の中の自分は、実に情けない顔をしている。フーリエが別に無理に行かなくてもいいんじゃない?と心配そうに言葉を掛けたが、パスカルは首を小さく振る。自分の中の気持ちと決別する為にも、見ておかなくてはならないと思った。笑って祝福の言葉を掛けてあげられるかは分からないが、せめて見守りたい。そして招待してくれたヒューバートの為にも、足を運ばない訳にはいかなかった。
* * * * *
「久しぶりだね、パスカルさん」
立食パーティーのような形式での食事。他の人が楽しげに談笑しているのを遠目で眺めていると、声を掛けられた。それはかつて一緒に旅をした仲間の一人―――リチャード。久しぶり、と言えば、リチャードは複雑そうに苦笑した。彼の背後には、アスベル達も居る。みんながみんな、苦い表情を浮かべていた。
(そんな顔やめて、余計苦しくなっちゃうよ)
パスカルは無意識の内に胸の辺りをギュッと握る。そんなことをしても、痛みは無くならないけれど。
「ごめん。僕は友人として、君達に何も出来なかった…」
「…やだなあ。なんでリチャードが謝るの」
「僕だけじゃないよ。みんなそう思ってる」
そう言われて、またみんなの顔を見る。少し前にアスベルとシェリアの結婚式に前出席した時は、みんな楽しそうに笑っていたのに。今は複雑そうな顔をしている。そんな顔しないで、笑ってヒューくんをお祝いしようよと言ってみれば、出来る訳ないだろ!とアスベルが不意に声を荒げる。驚いて目を見開けば、弱々しく眉を寄せてから、ごめん…と小さく謝罪した。
「仕方ないことだったって、分かってはいる。でも俺は…あんな悲しそうな顔したヒューバートを祝福出来るほど、物分かりがいい訳じゃない。本当は今すぐ、あの場所からヒューバートを引っ張り出したいよ」
俺はアイツに幸せになって欲しかったんだ。心から笑って、式をあげてさ。そんな場に立って涙で顔をグシャグシャにして、スピーチをしたかったんだ。今となっては、もう遅過ぎるけど……。少し涙声のアスベルを見ていたら、つられて目の前がじわりと滲んだ。嬉し涙ならいいけれど、この涙は違う意味の涙。流したらダメだ。ごしごし、と少し乱暴に拭うと、パスカルはヒューバートに向かって駆け出した。そう、今となっては何もかも遅過ぎる。だからせめて、願うしかないのだ。ヒューバートの幸せを。それぐらいは、自分にも出来る筈だ。
「ヒューくん!幸せになってね!」
大きな声でそう言えば、ヒューバートは驚いた顔をして。少し悲しげに笑って、ゆっくりと頷いてくれた。
* * * * *
式が終わったあとに少し出来た時間。ヒューバートのもとに、兄が訪ねてきた。相変わらず複雑そうな顔で、ヒューバートは思わず苦笑する。
「あの人は…泣いていましたか」
「泣いてはいないよ。でも必死に堪えてた。俺は気付かない振りをしたけど」
「……そう、ですか」
「………」
「やはり僕は、歪んでいますね。悲しんでくれる彼女を、少し嬉しく感じてしまうなんて」
いつもより口数の少ない兄だからだろうか。今はヒューバートのほうが饒舌だ。でなければ、きっと沈黙の重さに耐えかねない。そしてアスベルのほうは、少し言葉を選んでいるようだった。
「……パスカルは、強いな。俺はまだ、お前に祝福の言葉なんてかけてやれない」
「本人の前でそれを言いますか」
「祝福の言葉なんて、一生掛けられないかもな」
「…兄さん」
少し不機嫌そうに呟く。
気持ち良いぐらいに正直なアスベルに、ヒューバートは弱々しく笑った。でもこれは仕方がないことだった。後悔がないなんて嘘になる。だが、今更どうにもならないことなのだ。
「なあ。これで本当に…」
「良いんですよ。兄さんも知っているでしょう?これは仕方のないことなんです。向こうも僕を求めてくれている」
「違う。お前は幸せになれるか?心から笑って生きていけるのか?」
「……」
「ヒューバート」
少し責めるように強い口調で名前を呼んだことに気付いたのか、アスベルはごめんと頭を下げた。弟想いな優しい兄だから、自分のことでこんなにも怒ってくれている。昔から変わらないことを嬉しく思いながら、ヒューバートは言う。
「こうなった以上は、兄さんよりも幸せな家庭を築いてみせますよ」
「…お前な…」
少し皮肉を入れたつもりだったのに、その言葉でついにアスベルは俯いて涙を零してしまう。心の中でアスベルとパスカルに感謝と謝罪の言葉を浮かべて、ヒューバートは優しい兄の背中を擦るのだった。
優しい人たち
(ありがとう、ごめんなさい)
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書いてる途中で泣きそうになった。やっぱりハッピーエンドが好きだよ私は。
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