そしてまた嘘を重ねる(リチャ→パス)
ぐずぐず、鼻をすする音。
目の前で蹲って泣いているパスカルに、どう声を掛けたらいいかとリチャードは悩んでいた。
「うう〜…」
「…パスカルさん…」
何故こんなことになったのか。
自分が泣かせてしまったのか?という衝撃で、最早理由など忘れてしまった。否、忘れた…では語弊があるか。会話は覚えているが、それのどの辺りが彼女の涙腺に触れてしまったのか見当もつかないのだ。自分でいうのも何だが、そういったことには鋭い感覚を持っている筈なのに。これではまるでアスベルじゃないか、なんて若干親友に対して失礼なことを考えてみたりして。とにかく、普段は元気いっぱいなパスカルが泣いているところだなんて見たことがない。どうすればいいんだろうか。
(…いや、そういう問題じゃない)
だがかといって、泣いている女性を放置することなんて絶対に出来はしなかった。懐からハンカチを取り出して、そっと目元を拭ってやる。
「…大丈夫かい?」
「……うん」
無意識な上目遣いに息が詰まった。全くもって心臓に悪い。これがもし軽い男だったら、完全にお持ち帰りされていただろう。それほどまでに破壊的な威力を持っているそれを目の当たりにしても、表面上は平然としている辺りは流石リチャードだとしか言いようがない。
「ありがと、リチャード」
「構わないよ。…落ち着いた、かな?」
「うん。すっきりしちゃった」
「そっか」
「でも…なんで急に苦しくなっちゃったのかな」
「……」
理由はパスカルにも分からないらしい。だがきっと、無意識の内に色々と溜め込んでいたに違いないとリチャードは思う。頭はいいのに、彼女は自分の感情に鈍いところがあるようだから。溜め込んでいることに気付いてすらあげられなかった自分に舌打ちをした。彼女が分からないのなら、僕が気付いてあげられたらいいのに。
(そうなれたら、いいのに)
涙の跡が残る頬にそっと触れてみる。少し濡れた指先に、ジクリと胸が痛んだ。
「ねえ、パスカルさん」
「うん?」
「僕をもっと頼っていいよ」
言ってからハッとする。何を言っているんだ、僕は。パスカルは元々大きな瞳を更に大きくして、不思議そうにこちらを見上げている。驚かせてしまったようである。無意識に口から出た言葉だったから、リチャード自身も酷く驚いてしまった。
(そうだ。僕はきっと、本当は少し羨ましかったんだ)
冷静に自己分析をすれば、きっとそういう事になる。無自覚だとは思うが、彼女は特にヒューバートにはよく我が儘を言ったりしているから。恐らくは安心して甘えられる相手に、彼は入っているのだ。悔しいけれど、それは今のリチャードには出来ないことだった。
「…パスカルさんの力にも、なりたいんだ」
「リチャード…」
『も』なんて嘘だ。
本当はパスカルの力『に』なりたい。でもそんなことを言えば、きっと歯止めがきかなくなる。無意識にヒューバートを意識する彼女に、自分の心の奥底にある気持ちを吐き出してしまいたくなる。
―――だから。
ギュッと目を閉じて、その気持ちに蓋をする。不意にパスカルの手が、リチャードの髪に伸びた。そのまま撫でられる手が幼子にするかのようにあまりにも優しくて、少しだけ泣きそうになる。
「ありがと。優しいね、リチャードは」
「…そうでもないさ。当たり前のことだよ」
こんな自分勝手なことばかり考える自分を、彼女は優しいねという。その事に自嘲しながら、リチャードは笑みを浮かべるのだった。
出来るなら僕にだけ甘えて
(無理だなんて、分かってるけど)
(たとえばぼくが 様)
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リチャ→パスが可愛くてだな。
マイナー上等じゃい←
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