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覚悟を決めろと叫べない(ヒュ→パス)



あの先輩のどこが好きか?なんて。そんなことを聞かれても分からない。なんだかよく分からないうちに、気付いたら好きになっていたのだから。


あの人は非常識だ。
廊下は走るし、ドアはノックしないし、バナナを歩き食べするし、校則はスルーもいいところで。極度の風呂嫌いだし人の眼鏡は取るし、いつも何かしら騒いで人を騒動に巻き込むし。どういう人か、と言われたらこんなふうに悪いところばっかり挙げてしまうのは、自分の素直になれない性分故か否か。まあそんなことはさておき、こんな非常識な先輩を好きなのだと自覚してから認めるまでにも、かなりの時間を要したことを言っておくとする。それを一度開き直って認めてしまえば、一体今まで何に悩んでいたのかと思ってしまったが。


しかし一般人からすればこんなに悪いところしか挙げられないような人なのに、実は学校一の頭脳の持ち主だったりするから、世の中分からないものである(天才には変人が多いとはよくいったもので。悲しいかなそれに思い切り当て嵌まっているようだ)


ヒューバートもそれなりに成績は上のほうなのだが、パスカルはそれよりも遥かに上回っていた。あまりに悔しいのでより必死に勉強して順位は更に上がったものの、どうしても最終的には勝てずに終わるのだ。一度頭の中を覗いてみたい、と何度思ったことだろう。こちらから質問をすれば、博識な為に大体答えを返してくれる。ついでにいうと、可愛らしい外見と底抜けに明るく人懐っこい性格故に、学校内の本人が気付かぬところで密かに人気がある先輩だったりする……らしい(何故あんな人が!と思いつつもヒューバート自身も恋をしてしまっているので、人のことをいえない現状だ)。




* * * * * *




(……この人は……)




目の前ですやすやと幼い寝顔を浮かべているのは、ヒューバートがうかつにも恋してしまった一つ上の学年の先輩―――パスカルである。兄や幼なじみのシェリアと同じクラスの彼女が、何故ヒューバートの部屋で眠っているのか…少し状況を整理してみようと思う。


確か我が家に先輩とシェリアが遊びに来て。しばらくはアスベルやシェリア、ソフィと一緒に喋っていて。そろそろ勉強でもするかと自分の部屋に上がったヒューバートを、何故かパスカルが追い掛けるようにこの部屋にやって来た。ドアを開いたあと開口一番の言葉が『眠くなっちゃったから寝かせて!』である。当然ヒューバートは断った(相手は想い人だ。いくら今我が家にはアスベル達が居るとしても部屋に二人きりは色々非常にマズい)のだが、こちらの了承も得ずに勝手にベッドに寝転んで、そのまま眠ってしまったのである。


先程の会話の流れで分かったことなのだが、どうやら家で新しい実験や研究を行っているようで、寝不足気味なのだそうだ。だとしたら遊びに来るより睡眠にその時間をあてればいいのにと思ったが、『大好きなソフィ達とお話したかったんだもん』と意外にも可愛らしい理由を言われては怒るに怒れず。睡眠不足だということも知ってしまっている為、結局はこうして起こせないでいる。




(でも何故わざわざ僕の部屋に…)



もうこうなったら居ないものだと思って、勉強に集中しようかとも思ったのだが。想い人が自分の部屋で眠っているということを意識し過ぎて集中出来ない。これならまだ会話しながらのほうがよっぽど勉強出来ると思った。どうしたものかと途方に暮れていると、携帯にメールが一通。誰かと思えばそれは教師のマリクからだ。何だか嫌な予感しかしないが…とりあえずはメールを開いてみる。




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件名:チャンス
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寝ている今がチャンスだ。
そのまま襲って奴を我が物にしろ。グッドラック。



(やっぱりか!!)



思わず声が出そうになったものの、それを必死に堪えた自分を誉めてやりたい。あまりのタイミングの良さに何処かで見ているんじゃないかとすら思ってしまう。しかし納得がいかないことに実際に見ている訳じゃなく、ただ単に勘が鋭い人物というだけなのだが(今までも何度かこんなことがあり、周りを調べたり学校に連絡してみたりしたが、本人はきちんと校内に居た。尚更始末に悪い)




「ん?下にまだ何か……」




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PS.途中で目を覚ましたら、「覚悟を決めろ。僕を煽ったことを、後悔するんだな!」の一言で全て丸く収まるぞ☆
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出せはしないが、本気で秘奥義をぶちかましてやりたくなった。
…まあ、そんな悪い教師はさておきだ。掛け布団を掛け直しながらヒューバートは深いため息をつく。このままでは落ち着かないしどちらにしても集中は出来ないので、勉強道具を持って下のリビングまで行こう。そんな考えに至って立ち上がろうとする…のだが。



ガシッ。



「…っ!」



不意に寝ている筈のパスカルの手が、ヒューバートの服の裾を掴む。突然のことに大きな声をあげそうになるが、なんとか堪えた。何なんだこの人は。このままでは色々と非常にマズいというのに人の気も知らないで!




「ヒュー、くん…」

「…あなたという…人は……」




どんな夢を見ているんだろうか。唐突に呼ばれた名前に顔が熱くなる。本当に人の気も知らないで。この状況で名前を呼ぶだなんて反則過ぎやしないか。目線が自然に寝顔にいってしまう。意外にも整った顔立ち、長い睫毛。身体中が心臓になったかのように心音が間近に聞こえた。




「…どうなっても知りませんよ、もう…」




ふと気付くと、引き寄せられるようにパスカルの顔に自分の顔をゆっくりと近付けていた。自分でも驚いてしまったし、こんなことはいけないことだと思う。しかし、彼女にだって非はある筈だ。無防備にも自分に好意を持つ(全く気付いていないが)異性の部屋で寝てしまっているのだから。そのまま口付けを落としてやろうと、更に顔を近付けた。




「…ん?」




途端に間近でパスカルの大きな瞳が開く。お約束すぎる展開。これにはヒューバートも硬直してしまった。



「うーん…、ヒューくん…?顔覗き込んで、どしたん?」

「え!…あ…こ、これは……」

「あっ、もしかしてヒューくん…寝込みを襲おうとしたとか?」

「ちちち違いますよ!何馬鹿なことを言ってるんですか!!」

「…えー、冗談だよ。本気にしないでよ。まああたしだったらそうするけど」

「なっ…」

「おでこに肉って書くとか!定番だよねえ〜」

「……そうでしょうね。そんなことだろうと思いましたよ」




ふああ、よく寝た!なんて伸びをする彼女に脱力する。この際開き直って、『僕を煽ったことを後悔するんだな!』を実践してやろうかなんて馬鹿なことを思ったが、もうそんな気力と勇気はヒューバートに残されていなかった。この先輩を物にするには、まだまだ時間が必要そうである。





お約束過ぎて泣けます
(どうせ僕はヘタレですよ!)



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頑張れヒューバート(真顔)


あきゅろす。
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