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アセロラB(ヒュ→パス/オールキャラ)


「こらーー!いい加減お風呂に入りなさーい!!」

「だーかーらー、大丈夫だってまだ!しつこいなあ〜」

「何が『まだ』よ!お風呂は毎日入るものなんだから、そんな言い訳通用しないの!」



嗚呼、またか。
あまりに日常茶飯事なやり取りに、ヒューバートはため息をついた。それを隣で見ていた兄は、『パスカルも相変わらずだな…』なんて言っている。正直、そんな言葉で済ませていい事柄ではない筈だ。パスカルという人物は、極度の風呂嫌いである。その為、パーティ内のお母さん的な役割であるシェリアが、毎回苦労を強いられているのだ。というか、この人は22歳ではなかっただろうか。18歳に叱られている22歳だなんて、見ているだけで何だか悲しくなってくる。待ちなさい!嫌だよー!なんてどちらが歳上だか分からないやり取りをしながら、ドタバタと走っている二人をソフィが真似して追い掛けた。追い駆けっこのような状況になっている。まあ端から見たら微笑ましいのかもしれないが…そこまで考えてヒューバートはやれやれ、と額に手をやった。こればかりは、彼女に共感なんて出来ないし肩なんて持てない(というか、持ったらダメなことだ)。あの教官ですら、呆れた様子で二人を見ている。



「でも、パスカルはどうしてそんなにお風呂が嫌いなの?」



追い掛け疲れたお母さんと、暫く追い掛けられて流石に疲れた仲良し姉妹の姉。二人がぐったりと座り込むと、ソフィも立ち止まってパスカルの顔を覗き込んだ。えー、だってさあ〜とパスカル。だってじゃない、とシェリア(ヒューバートも内心で同時に)がツッコミを入れた。



「お風呂入ってる時間があるんなら研究したいし、洗ったりするのめんどくさいんだもんー」

「めんどくさい?」

「だから、理由になってないわよ!絶対後者が一番の本音だし…!」



言葉を律儀に復唱するソフィに、パスカルを注意するシェリア。本当にもう、どちらが歳上だか分からない。まあそう思うことは、今に始まったことではないのだが…。全く…と、ここまで傍観に徹していたマリクがパスカルの頭を軽くこづいた。


「あだっ」

「何故そこまで面倒臭がるんだ?お前は」

「ぶぅー…だってさあ、お風呂に入らなくたって死んだりしないって」

「身体を清潔に保たないと、いつか病気になるぞ」

「あたし今までなったことないもん」




その言葉にソフィを除くパーティメンバーが絶句した。シェリアが耐え切れずに『もう嫌……』と顔を両手で覆う。常日頃から嫌がるパスカルを頑張って入浴させている身として、その言葉は耐え難いものだったのだろう。大丈夫か?とアスベルが苦笑い。マリクはため息をついた。



(……気の毒に……)




流石のヒューバートも、シェリアを憐れに思った。ソフィが慰めるように頭を撫でているが、効力があるかはイマイチ分からない。



「…今は若いからそんなことが言えるんだ。あとから来るぞ」



しかしそこはそう簡単に挫けない漢――マリク・シザースだ。いつものからかう素振りを封印し、今は何時にも増して頼りがいのある『教官』の表情で、パスカルに言葉を続けた(流石です教官!とアスベル)。



「ええ〜?そんなことな」

「絶対にないと断言出来るのか?お前はその生活習慣のまま、一度でも若くない歳になったことがあるのか?」

「うぐっ…それを言われると…」


うーん、とパスカルが悩み始める。普段からよくからかわれる対象となっているヒューバートとしては、マリクはあまり誉めたくない人物なのだが、今回ばかりは流石としか言いようがなかった。あのパスカルを、言葉で丸め込もうだなんて。悔しいが、自分にはとても出来そうにない。アスベルやシェリアも、どことなく尊敬の眼差しを向けて見守っている。



「ん〜…じゃあさ、」

「なんだ。言ってみろ」



うんうん唸っていたパスカルが、渋々といった様子で顔を上げる。その場に居る誰もが、観念して風呂場に行くのだと思っていたのだが…



「そこまで言うなら、教官が洗ってよー」

「ならさっさと……、何だって?」

「教官がお風呂に入れてよ」

「えっ、えええっ!?」



…やはり其処はパスカルという人物だ。それはそれは予想の斜め上をいき、とんでもない爆弾を落とす。信じられない…と言いたげに思わず聞き返したマリクだが、同じような言葉が返ってきた。驚愕の声を上げたのはシェリアと…そしてヒューバートだった(因みに言葉を失っているのはアスベルで、ソフィは相変わらずキョトンとしている)




「なっ、何を考えてるんですか貴女はっ!!今の流れで何故そうなるんです!?」

「やっぱり教官とパスカルって、そういう関係だったんですか!?」

「……全く身に覚えがないんだが」



顔を真っ赤にしたヒューバートに怒られて、パスカルは肩を竦めた。それにしても、二人してそれぞれ面白いぐらいに全く違うところに反応を示したものである。やっぱりってなんだ、とマリクはシェリアに思った。まだ指輪の件を引きずっているのか(あれはそういった意味は皆無だというのに)。しかし何故そんなあらぬ誤解をされるようなことをいうのか。これはパスカル本人にきちんと説明して貰わねばならない。でないとシェリアはともかく、ヒューバートには雷を落とされそうな雰囲気だ。



「…で、何故そんな話になった?」

「ぶうー。だって教官がそう言ったんだから、責任持って洗ってよ。我慢するからさあ」

「……なんだ、それは」

「シェリアでも良いんだけど、プリプリ怒るからさー」

「もう!誰のせいだと思ってるのよ!」



責任ってなんだよとツッコミを入れたい。そもそも恋人でもなんでもない男女が、一緒に入浴だなんていくら仲間内とはいえ気まずいとは思わないのか。その辺りの常識が通用しないのが、パスカルらしいといったらパスカルらしいが。しかしいくらなんでもそれは…とマリクは眉を寄せた。




「……いや、だが流石にそれはな…」

「えーっ!?いいじゃん、洗ってくれれば入るってば!!」

「ち、ちょっとパスカル、落ち着いて…」

「いくつだお前は」

「22歳!」

「……」



珍しく食い下がるパスカル。どうやら自分で洗うのは面倒臭いが、病気になるのは嫌らしい。なんて我が儘な…と思わずマリクは苦笑する。そうだ、流石に教官でもそんな非常識なことを了承する訳が…とヒューバートは内心安堵するが、チラリとこちらを見たマリクは何を思ったのか、唐突に考えを改めた。それにはヒューバートも言葉を失ってしまう。敢えて言葉を付けるなら、『いや、あの、ちょっと…』である。




「……仕方ない。俺が洗ってやろう」

「なっ…!?」





ついさっきまでの『教官』らしい表情はどこへやら。すっかりいつも通りに、からかいを帯びた表情になっていた(動揺しまくりなヒューバートは気付かなかったようだが)。




「やた!教官優しい〜!」

「ちょっ、ちょっといいんですか教官!?パスカルを洗ったりするなんて…!」

「…ああ、このままでは埒があかん。本人がいいと言っているから問題ないだろう。善は急げだ、シェリアはタオルを準備しておいてくれ」

「えっ、ええ……」

「な、なにを言って…」

「…ヒューバート」



今の今まで黙っていたアスベルが、真面目な顔をして弟の肩をポンと叩く。オイルを差し忘れた機械のようにぎこちなく顔だけを兄のほうに向けるヒューバートの目を真っ直ぐ見つめて、アスベルが言う。



「風呂嫌いのパスカルが風呂に入るなら、そんなに怒らなくても良いじゃないか。これならシェリアもヒューバートも頭を悩ませなくて済むし」

「!」



まさか兄にそんなことを言われるだなんて…頭を鈍器か何かで殴られたような衝撃だ。何でそんなに怒ってるんだと言いたげなアスベルに目眩がするのは、恐らくは気のせいじゃないだろう。



「大丈夫、俺も最初は驚いたけどさ。パスカルも了承してるし、教官ならきっと隅々まで綺麗にしてくれるよ」

「な、な……」

「そっか、じゃあ私からもお願いする。パスカルを洗ってあげてね、教官」

「フッ、任せておけ」



可哀想なぐらい顔を真っ赤にしたヒューバートは、口をパクパクするしか出来なかった。最早『何言ってるんですか!』の言葉すら出てこない。挙げ句の果てにソフィまで教官に頼む始末である。信頼する教官だから大丈夫だというオーラのような物が透けて見える気がする。そんなものは理由ですらならないのに。とにかく非常識だ。何が非常識って恋仲でもない男女がそんな……と頭をフル回転させて、何とか説得出来ないものかと考えていると。



「なっ?」




黙っているのを肯定と判断したアスベルが、笑顔で言う。いや兄さん『なっ?』って言われても返答に困るから!ヒューバートは頭を猛烈に壁に打ち付けたくなった。



「そうと決まれば行くか。俺が『隅々まで』洗ってやる」

「ほいほーい!お手柔らかにね〜」




流れを見守っていたマリクがやけに『隅々まで』の言葉を強調し、そのままパスカルを俵抱きにしてバスルームまで連れていく。わなわなとそれを見ていたヒューバートはハッと我に帰ると、呼び止めるアスベルとソフィを無視して(というか耳に入ってない)絶対に食い止めようと後を追い掛けて行った。



(何故か男女云々以前に、パスカルさんと教官という部分で既に嫌な気持ちになる……とにかくそんなことをさせてたまるか!)




その後。
マリクはこれまでにないぐらい面白い物を見ている目で、嫉妬やら羞恥心やらで赤面したヒューバートと対峙することになるのだった。





ロマンチック・バスタイム
(どこがロマンチックですか!!)




(とにかく!男女で入浴なんて認めません!風紀が乱れます!)
(ぶぅー…堅いなあ、弟くんは…あ、じゃあ弟くんが洗ってくれる??)
(なっ…、話を聞いてないんですか貴女は!!)
(…フッ)



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ギャグって難しい(´`)←
※加筆修正しました。


このあとすったもんだした挙げ句、結局ヒューバートが折れて『頭だけ』洗ってあげるといいよ(身体は流石にヒューがもたないからシェリアさん←)


あきゅろす。
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