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アセロラ@(ヒュパス)


おかしい。絶対におかしい。
ヒューバートはチラチラと目の前で揺れる銀と赤のグラデーションの頭を見て、人知れず険しい表情を浮かべた。



つい先日のことである。
仲間内ではあるものの、素性が知れない為にヒューバートはマリクやパスカルをずっと疑いの目で見ていた。しかし雪山での自分の失態を責めようとなかったマリクと、こちらが疑っていたにも関わらず自分を庇ったパスカル。そんなことが出来る人間が居るのかと、受けた衝撃は大きかった。それから漸くヒューバートは、今までの二人に対しての態度を詫び、気持ちを改めることが出来たのだ。あまり素直に人前で言いたくはないが今では、二人は大切な仲間である。



……である、筈なのだが。
其処でヒューバートは首を捻る。否、マリクの方は多少性格に難はあれど(人をおちょくるのが好きなようである)問題はない。今彼が頭を悩ませているのは、もう一人の仲間―――パスカルのことであった。



(あの人はなんなんですか一体…)



何度こう思ったことだろう。
とても22歳の女性とは思えない行動を度々起こすのである(今だって道端に落ちている食べ物を、三秒ルールだなどと戯けたことを言って食べようとしていた。流石にシェリアから注意が入ったが)。和解した後に気付いたことだが、彼女は常に自分の本能のまま動いている。疑っていたために思考が狭まっていて気付けなかったが、パスカル程に裏表がない人間を、ヒューバートはいまだかつて見たことがないかもしれない(いや、兄やシェリアやソフィもそうであるが)。



先の雪山での出来事で、ヒューバートのことを仲間であると言い、そして友達になろうとパスカルは手を握って来た。まあそれは別に問題ではない…と思う。いきなりだった為にこの上無く驚いてしまったが、あとからあれは純粋な彼女らしい行動なのだろうと思ったから。


しかし、それからというもの。
一々パスカルの言動に反応してしまう自分がいることに、何となく気付いてしまっている。気付くと目であのグラデーションの頭を追っていると自覚して、ヒューバートはまさかそんな、と首を振る。いや、あり得ない。そんな筈は断じてない。あの人は見ていて危なっかしいから目が離せないのであって、他意はない。断じてだ。絶対にあり得ない。



(僕があんな非常識な人を意識する訳がない。何かの間違いだ)



ここは一つ大きく深呼吸をして、冷静に分析してみよう。破天荒で、非常識。天真爛漫、明るい。人懐っこくて恐らくは誰からも好かれる性格。極度の風呂嫌い。…そして意外にも博識であり、頭脳明晰。アンマルチア族。それが今のところのパスカルという人間に対しての分析であった。天真爛漫過ぎて、時々22歳だということすら疑わしく思ってしまう程だが。…何故この人が僕より5歳も歳上なのかと、ヒューバートは苦い顔を浮かべた。絶対、世の中間違ってる。



「またパスカルを見ているのか?近頃はよく見つめているな。それも熱烈に」

「なっ…、別に見ていません!それを熱烈だなんてもってのほかです!」

「そうか…それは済まない。お前はアイツに気があるのかと思ったが、どうやら俺の勘違いだったらしい」



さも面白そうに後ろから声を掛けてきたマリクに反論すれば、目の前でわざとらしく肩を竦められた。なんだその言い方は。絶対にからかわれている。これ以上オモチャにされてたまるものかと、ついヒューバートは声を荒げてしまった。




「ぼっ、僕がパスカルさんを好きな筈がないでしょう!?あり得ません!」

「え〜っ、ひどいなあ。せっかく友達になったのに」

「えっ」




横から聞こえて来た声に思わず眼鏡が割れ…たりはしないが、割れても可笑しくないぐらいヒューバートは衝撃を受けた。何故本人が間近で聞いているのだ。少し残念そうに眉を寄せたパスカルに、言葉を失ってしまう(その傍でニヤニヤしていたマリクには、秘奥義を食らわせてやりたいぐらいだったが)。



「な、何故貴方が、」

「あ〜…。あんなにおっきな声出したら誰でも聞こえるって。あたしの話」

「!」



まあ当然といえば当然なのだが、周りを見渡せば仲間達が少し離れたところで苦笑をしながらヒューバートを見つめていた。ソフィはキョトンとしながら、「ヒューバートはパスカルが嫌いなの?」と純粋な瞳で少し悲しそうにアスベルに質問している。ズキズキと痛む心。それはまた違う意味なのだと分かってはいるが、誤解させたままでは流石に良心が痛む。



「あたしそこまで嫌われてたのかー」

「い…いや、嫌いではないです。というか、先ほどの言葉はそういう意味ではなくてですね、」

「ん、そっか。じゃあ良かった!」

「…えっ」



間近で満面の笑みを見てしまった。知らず知らずのうちに頬に集まる熱。あんなに残念がってたのに随分あっさり引くんですねとか、ツッコミたいところは多々ある気がしたが、パスカルの「あれ、弟くん顔赤いけどどしたの?風邪?」という言葉で全部吹き飛んでしまった。




「な、なんでもありません。さあ、早く先を急ぎましょう!」




アイリスの予感
(いや、まさか、そんな、)



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認めたくないヒューバート。
まあ、そりゃそうだよなー←


あきゅろす。
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