手伝ってあげる(ゼロスとロイド)
灰色の、空。
降ってくる、雪。
雪は白い?嘘だ。
ねえ、だってこんなにも、
『赤い、のに』
……赤、い?
そこでハッとする。少年に覆いかぶさった女性が肩に手を置いた。見ればその瞳には何の感情も映し出されては居なくて、ゾッとした。その目には、見覚えがある。
(──お前なんて、)
…止めて。
(───お前なんて、産まなければ)
……言わないで。
その先を、言わないで。
少年は祈るように、拒絶するように目をギュッと閉じた。
「……っ、は、」
目を開けると、灰色の空ではなく宿屋の天井が見えた。
「…馬鹿じゃねーの、俺さま」
久しぶりに夢を見た。
小さい頃の、悪夢。
腕で目元を隠すと、じわりとそこが濡れる。…嗚呼、ガラじゃない。なのに涙が止まらない。
あれからもう何年も経ったのに。
ただの夢なのに、まだこんなにも動揺するなんて。
(どうしてまだ俺は生きてる)
(間違ってるんなら、誰か殺せよ)
(求められてるのは、俺じゃないのに)
(他の奴らが求めてるのは、俺じゃないのに)
『神子様!』
『ゼロス様!』
皆ヘコヘコしてやがんだ。
神子様神子様って。こんな風に遊び人な俺に対して。心の底じゃどう思われてるか分かったモンじゃねェ。へえ、そんなに気に入られたいのかよ。こんな軽いヤツにも笑顔か。『神子』だもんな。俺じゃない、『神子』だから。中身はどうだって良いんだ。
("神子"なんて型に収まるのが嫌だった)
(でも藻掻けば藻掻く程分からなくなった)
("俺"はどこに行ったんだろう?)
いっそのこと、この窓から飛び降りたら。この苦しみから解放、されるのに。
「ゼロス?」
「…っ、!」
窓から身を乗り出したところで、後ろから声を掛けられた。嗚呼、最高にムカつくタイミングだなァ。今俺さまはセンチメンタルなのよ、独りにしといてくれや。無言な俺を不審に思ったのか、もう一度ゼロス?って声がした。聞こえてるっつーの、ほっとけよ。
「オイ、聞いてんのか。何してんだ?」
案外しつこい。
仕方なく、(振り返らずに、だが)返事を返してやることにした。
「……いっちょ前に夜更かしかよ」
「あー…なんか、目が覚めちまったから」
「たっぷり睡眠捕らねェと、身長デカくなんねーぞ」
「ゲッ、マジかよ。それは困るなあ…って、俺の質問に答えろよ!」
「……、あー…ホラ、アレだよ。ちょっと風に当たりたくなってさァ」
「ふーん」
自分から聞いといて何だそれ。
声があからさまに興味無さそうじゃねーか。まあ、別に関心なんかハナから持ってくれなくても良い。どうでも良い。むしろ好都合だった。さあ、早く寝てくれ。
「なあ」
「…え、」
急に静かになったと思ったら。
いつの間にか、コイツは俺のすぐ後ろに居て。
突然の後ろからの衝撃で、俺の身体は窓の外に吸い込まれるように、
「なあ、手伝ってやろうか」
スローモーションのように見える景色。最期に見たそいつの顔は、いつもと同じく人懐っこい笑顔だった。
や
っ
ぱ
り
俺
は
居
ち
ゃ
い
け
な
か
っ
た
。
(ホラ、誰も俺なんて)
Fin...?
「……ス…!…ゼロス!!」
「…っ、」
次に目を開くと、ロイドの顔があって(夢のこともあるので)死ぬ程驚いた。でもその表情は曇っていて。何となくそれを見て、安心した自分が居る。
「良かった、目が覚めたんだな!酷くうなされてたぞ」
「……夢、か…」
「…やな夢見ると、寝るの怖いよな…」
周りを見渡すと、野郎共はスヤスヤ寝ていて、起きているのはコイツだけだった。心配するようなその言葉に、とっさに苦虫を潰したような顔を張り付ける。
「……別に怖くなんかねェし。俺さまのことはほっといて良いから、ロイドくんは早く寝なさいって」
「とか言って、震えてるぞお前…」
「………」
嗚呼、俺さま格好悪いなあ。
オトナの余裕を見せて、茶化したつもりだったのに。
「しょーがねェなあ。寝るまで俺が付いててやるよ!目が冴えちまったからな」
「…そういう台詞は女の子に言うモンだぜ、ハニー」
馬鹿みたいに明るい笑い顔を見て、つい口元が弛む。
嗚呼、コイツは本当に。
(人を安心させる天才か、コイツは)
Fin
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後半ズドンっていう話が書きたかったから書いたんだけど、自分で凹んで急遽加筆…。
こんな夢見るなんて、ゼロスの精神状態かなり悪いよね…。ロイド、救ってやれよ!!(ムチャ振り)
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