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傍に居る、離さない(ヒュパス)




(――ああ、いやだ。置いていかないで。頑張るから、だからお願い)
(僕一人だけにしないで)




「…くん、起きて…」



小さい頃の記憶。
胸が裂けそうなぐらい辛くて、苦しい夢を見た。目を開くと、其処にはパスカルの心配そうな顔があって気付く。



「ヒューくん!」

「……パスカル、さん」


パニック状態だった自分を起こしたのは、パスカルだったのだと。



「ほい、ホットミルクだよ」

「…ありがとうございます」



手渡されたマグカップは程よい温かさだった。それに何となく安心して一口だけ口に含むと、徐々に胸のざらざらした感じがほぐれていく気がした。パスカルは、何か言いたげにこちらを覗き込んでいる。でも上手い言葉が見付からないからか、珍しく考える素振りをして口を閉ざしていた。



「…らしくないですね」

「失礼な!あたしだって考えることぐらいあるよっ」



弱々しく笑ってそう言えば、いつも通りの返事が返ってくる。その事に思った以上にホッとした。



「知っています。…すみません、気を遣わせて」

「……もう。どっちがらしくないんだよ」

「僕、でしょうね」

「〜〜もうっ!」



どうしようも無くなったのか、急にパスカルが抱き付いてきた。危うくホットミルクを零すところだったのだが、そこは軍人である自分の反射神経で持ちなおす。叱ろうかと思ったが、これは自分の為なのだと理解しているので怒れないでいる。



「…ヒューくん、あたしは誰?」

「パスカルさんです」

「今、あたしは何処にいる?」

「……僕の傍に居ます」

「離れないよ」

「…はい」

「一生くっついてる」

「…はい…って、それ意味分かって言ってますか?」

「……」

「……パスカルさん?」



状況を確認する為の質問のあと、急に返事をしなくなったパスカルに怪訝そうな声を出すが、一言も喋らない。不思議に思って目線を下げれば、赤くなっている耳に気が付いた。何て事はない、どうやら珍しく照れているらしい。こちらもむず痒くなったが、どうすればいいか分からなくなってしまった。



「……ごめん。あたし、」

「パスカルさん?」

「あたし、こうやってぎゅっとする以外何も出来ない。ごめん」

「…、」

「ヒューくんの痛いとこ、撫でてあげられればいいのにね」




いつもよりか細い、小さな声。
そんな事はないと、ヒューバートは首を振った。自分はパスカルに、こんなにも救われているのに。



「すみません。随分救われましたよ」

「…嘘だ」

「僕は嘘は嫌いですが」

「……」



ぎゅっと、抱き締める腕に力が入った。謝罪と感謝の気持ちを込めて、今は少しだけ勇気を出してみようか。



「パスカルさん」

「ん」

「一生離しませんよ」

「……」

「今傍に居てくれて、感謝してます」



恥ずかしさを紛らわす為にパスカルが更に抱き締める力を強くしたため、別の意味で苦しくなる。それでももう、離すことはしたくなかった。




夢なんて忘れようよ



(反転コンタクト様)


あきゅろす。
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