仲間思いなだけ(ヒューバートとパスカル) 「ふんふんふ〜ん♪」 「……」 ガチャガチャと耳障りな音を立てて、手元の機械を弄るパスカル。そんな彼女の監視を兼ねて、今こうして見学させて貰っているのはヒューバートである。この人物についてはまだ全く以て理解出来ておらず、理解が出来ないこと=不安要素でしかないのだ。出来るだけ不安要素は減らしておきたいもの。マリクに対してもそうだが、『少しでも信用すればいつ寝首をかかれるかも分からない』と、得体の知れない人物に一人神経をすり減らすヒューバートの心中を知ってか知らずか、 「弟くんはさ、本当に用心深いよねェ。若いのにしっかりしてて、エライエライ」 何でもないような素振りで、パスカルという人物はいきなりこんな話を振ってくる。これにはヒューバートも一瞬脱力しかけた。この人は自分の立場とこの状況を分かっているのか。それとも、こちらを油断させる為の罠か……? 「…突然何を言い出すかと思えば…言っておきますが、僕をおだてても何の得にもなりませんよ」 眼鏡を押し上げ、答える。我ながら模範解答のような言葉だ。だがこれが無難だろうと考え直し、相手の出方を窺う。正体をなんとか見透かしてやる、という気持ちが入っているであろう鋭い眼光(昔から目は口程ものをいう、と言うものである)に、流石のパスカルも肩を竦めた。そんな怖い顔しないでよ〜と最初に伝えてから、うーん…と首を捻る。 「…別に何も要らないけどさ。あたしは弟くんをただ純粋に誉めたつもりだけどな〜」 「貴女は…自分の今の状況が分かっているんですか?」 「うん。弟くんに疑われてるね」 「!」 あっけらかんと言うパスカルに、今度ばかりは言葉を失ってしまう。 「弟くんって、本当にアスベルが好きなんだねえ」 「何故今兄さんが出てくるんです!」 「だって、用心深いのはアスベルとかの為でしょ?」 「…なっ…」 言葉をつまらせるヒューバートに、優しいねえとパスカルは笑った。しかしそんなに分かりやすいのだろうかと、内心舌打ちをする。不安要素を取り除きたいのは、自分の性分故…しかしそれは結果的に兄の為でもあることになる(あまり素直に認めたくはないが) 「でも、あたしそんなに怪しいのかなあ」 「あ、当たり前じゃないですか!直ぐに信じるほうが楽天的過ぎるんですよ!」 「うんうん」 なんだその軽い反応は。 とても疑われている人間の反応とは思えない。兄の話が出た為に(見透かされた恥ずかしさも手伝って)、つい感情的になってしまった自分に気付き、冷静になろうと深呼吸を一つ。この人にはペースを乱されてばかりな気がする。 「……とにかく。僕は兄さん達と違って甘くありませんから、そのつもりで居てください」 「うん、分かった」 「……貴女という人は…」 ため息と共に吐き出した台詞は、少しだけ呆れの色が出ているように聞こえる。そんなヒューバートをまじまじと見つめたあと、ふと考える素振りをして、パスカルは良いこと思い付いた!とばかりに手を叩く。 「じゃあさ、弟くんの気が済むまでこれからもあたしを観察してていいよ」 「えっ?……ええ、まあ言われなくてもそのつもりですが」 「そんで裏切ってるように思ったら、その時は遠慮なく撃っていいからさ」 「……なっ…」 耳を疑った。 この人は正気か?何故そんな事を…目を見開くヒューバートを差し置いて、少女はうんうんと頷いた。 「だって弟くんがどう思ってても…あたしは弟くんを仲間だと思ってるし、信じてるよ」 「…随分甘い考えですね。それで、本当に撃たれたらどうするんです?」 「その時はその時だよー!ま、あたし打たれ強さには多少自信あるし」 「そういう問題では…」 「弟くんの気が済むまでじっくりと観察して貰って、不安も無くなればそれでオッケー!ねっ?」 「……はあ…」 お気楽な笑い声を聞く頃には、最初にあった筈の毒気がすっかり抜かれてしまっていた。このパスカルという人は、まだまだ自分では計り知れない人物なのだとヒューバートは思い知るのだった。 裏切りに見えたら撃って (そう簡単に倒れないし、平気平気!) (反転コンタクト様) ------- いつになく微糖。まだまだ恋愛ではないです。ただ、パスカルの純粋さに徐々にほだされていけば良いと思うんだ← |