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何もかももう遅い(ヒュ→(←)パス)
※EDから何年か後。
※パスカルさんが誰かと結婚してます。





「久しぶりだね、ヒューくん」



カチャリ、紅茶のティーカップを置く音がする。にっこりと笑って紅茶を注ぐ彼女を、どこか不思議そうに見つめた。仲間達と一緒に旅をしてから、何年が経ったのだろうか。あの頃よりいくらか柔らかくなった雰囲気と眼差し。それでも痛いぐらい透き通る琥珀色は、変わらない。



「…髪、伸びましたね」

「うん。ヒューくんはさ、昔より格好良くなった」

「…っ、なんで貴女はそういう事を急に、」

「あはは!急にそうやって慌てて怒るところも、全然変わってないね」



あの頃よりいくらか落ち着いて、大人びた彼女。こちらの物言いをものともせず、ふわりと柔らかく笑われてしまった事に、ああやはりと歳の差を痛い程痛感して。パスカルの左手に光る指輪が目に入り、息が詰まりそうになる。じわりじわりと広がる気持ちに、釘を刺された気がした。



(まさかパスカルさんが結婚する、なんて)



先日パスカルから来た通信の内容に、目を疑った。信じたくは無かったのに、その証に現実なのだと思い知らされて。



「連絡してから会いに来てくれたの、ヒューくんが一番最初なんだよ」

「…そう、ですか」

「うん。みんな忙しそうだよね〜」

「その言葉は…僕が暇だとでも言いたいんですか?」

「うそうそ!会えて嬉しいよ、ヒューくん」



カラカラに渇いてしまった喉に、少し冷めてしまった紅茶を一口だけ流す。やはり少しだけでも砂糖を入れれば良かったと、ヒューバートは後悔する。しかし砂糖を入れたところで、きっと甘くはならないだろう。正直な話、味が分からない程に自分は動揺していたから。



「しかし…結婚したあとに報告するというのが、パスカルさんらしいですね」

「えへへ、それほどでもないよ〜」

「誉めてませんよ」



ぴしゃりとそう言えば、ブーと頬を膨らます。その仕草でさえ、変わらないのに。胸が痛むのを必死に我慢していることなんて、きっと彼女は知らない。



(貴女は、僕の幸せそのものだった。ずっと傍で見ていられたらと、そう思っていたのに)



自分があともう少しだけでも勇気を出してその腕を掴んでいたら、変わっていたのだろうか。今となっては、分からないことだけれど。



「パスカルさん」

「…ん?」



不思議そうにこちらの顔を覗く。その無防備な頬に口付けを落として、このまま奪ってしまおうか。一瞬そんな考えが過る(きっとそんな勇気はないけれど)。頭を振って、そっとその考えに蓋をする。手を伸ばす勇気が無かった自分に、そんなことをする資格なんてない。



「幸せ、ですか?」

「……うん。いっぱいバナナパイを食べた時より、ずっと幸せ…かな」

「…それなら、いいです」



少しだけ悲しげに見えたのは、きっと僕の気のせいで。




「……お幸せに」





幸せに幸せかと問う
(本当は奪って欲しかった、なんてね)



(反転コンタクト様)


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