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結婚相手は誰ですか?A(ヒュパス+マリク)




視界が閉ざされた中、ヒューバートが真剣に言葉を紡ぐ。手の平の熱に驚きながらも、耳を傾けていたのに。



「好きな人と、結婚したい」



何故だろう。
その言葉を聞いた途端に胸がズキズキと痛み出し、涙が止まらなくなってしまったのである。その場に居るのが辛くなって、つい逃げるようにこちらに来てしまった。驚きたようなヒューバートの表情が、こびり付いて離れなかった。


「…なんで、苦しいんだろ…」



痛む胸に手をやる。確かにこの辺りがズキズキと痛むのに、原因が分からない。本当に、あんなことを質問したのは興味本位だったから。こんなことになるなんて予想外のことで。



「弟くん、好きな人居るんだ…」



パスカルは今まで恋愛などしたことがないから分からないが、ヒューバートのいつもより熱を帯びていた手が、それを確かに物語っていた。恋愛なんてイメージがないが、そんなヒューバートに好きな人が居たなんて。これはとても喜ばしいことで、仲間だし祝福の言葉の一つでも掛けてやるべきだったのに。



涙が、止まらない。



「どうした、パスカル。気分でも悪いのか?」



蹲っていたパスカルに、マリクが心配そうに声を掛けた。思わずバッと勢いよく顔を上げた少女の目が、痛々しい色になっていてぎょっとする。これはただごとではないと直感し、言葉を続けた。



「大丈夫ではなさそうだな」

「…教官〜」

「何かあったのか?俺で良ければ話を聞くが」

「うう〜〜」

「泣いてばかりでは分からんぞ?」



涙でぐちゃぐちゃの顔で抱き付いてくるパスカルをしっかり受け止めてガシガシと頭を撫でてやる。さて、どうしたものか。いつも笑顔を絶やさない彼女がこうも泣きじゃくるのは珍しい。



「…あのね、弟くんに質問したら答えてくれたんだけどね、」

「何の話を質問した?」

「結婚」

「……ほーう?」



これはこれは。
思わずマリクの口元が弧を描く。何やら面白いことになっているようである。それでね、なんか急に苦しくなっちゃってね、と上手く説明出来そうにないのか必死な表情になるパスカルに、事情はなんとなく理解したと伝える。



「ねえ、どうして苦しくなっちゃったのかな。教官分かる??」



首を傾げてこちらを見上げるパスカル。教えてやりたいのは山々だが、これはやはり本人が気付くか、もしくは―――。



「さあな。俺には分からんが…もしかするとヒューバートなら、答えを知っているかもしれんぞ?」

「…僕が、なんですか…?」

「お、弟くん…!」



声のするほうに目を向けると、険しい顔をしてヒューバートが立っていた。肩で息をしている。走ってパスカルを探していたのだろう。



「遅いぞ、ヒューバート」

「貴方には関係ありません」

「そんなことはない。仲間が泣いていたら誰でも心配になるだろう?」

「……」



あまり泣かせてやるなよ、と小声で呟いて肩に手をやる。教官〜と頼りなさげな声を出すパスカル(行かないでと声色が言っている)に頑張れよとエールを送って、マリクはその場から立ち去っていった。



「………」

「何故…いきなり逃げたんです」

「…え、と、それは…あたしにも分かんなくて」

「……」



ああ、また泣きそうになっている。そんな顔させたくないのに。自分が、何か彼女を傷付けてしまったのか。とにかくパスカルには、笑っていて欲しいとヒューバートは思う。



「あのね、苦しくて…」

「…はい?」

「弟くんに好きな人が居るんだなあって思ったら、急に涙が出て来ちゃってさ。だから、あたしにもよく分かんないけど逃げちゃって。ごめん…」

「…なっ…!」



しょんぼりと顔を俯かせてパスカルが言う。普段よりも小声だったが、確かにそう聞こえた。その言葉はヒューバートにとって、先程泣いた顔を見た時と同じく衝撃を与えた。一瞬耳を疑う。自分の耳が都合のいい言葉にしてしまったのではと。



「教官は、弟くんに聞いたら分かるんじゃないかって言ってた。…分かる?」

「それ、は…」

「分かるの!?教えてよ弟くん!」



おのれ、あの男。
他人事だと思って勝手なことを…絶対に面白がっているに違いない。確かに思い当たる節はあるが、そんなことを自分の口から言うなんて…



「…例え話ですよ」

「へっ?」

「もし、もし僕の結婚する相手が貴方自身だとしたなら…どう思いますか」

「……」



今は絶対鏡なんて見れない。
きっと情けないぐらいに顔が真っ赤だ。そして暫く考えていたパスカルは、徐々に痛みが引いていくのを感じていた。



「…あ。ズキズキしなくなった…」

「……そう、ですか。ま、まああくまで例えばの話ですがね。良かったじゃないですか」

「うん!何だかよく分かんないけど、ありがと弟くん!」

「え、ええ…」

「でも、なんで痛くなくなったのかなあ〜」

「い、痛みが無くなったんだからもういいでしょう!?あまり深く考えなくてもいいことです!!」

「ん?そっかなー。あっ、待ってよ弟くーん!」

「知りません!!」

「わっ、何で急に怒ってるの?」


もう暫く顔なんて見れない。
思いがけないところで無意識であるようだが、相手の気持ちを知ってしまった。だけどまだ、自分からは言えそうにない。もう少しだけ勇気が出てきたら、そうしたらその時は―――




「ねっ、将来本当に結婚しよっか?」

「なっ…!」



その時はきっと、ちゃんと目を見て言えたら良いと思う。




あなたと幸せになれたらという、たとえ話
(いつか、きっと)



(反転コンタクト様)



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ヒュパスは好きだが、そう簡単にくっつけてたまるか!というひねくれ管理人の趣味←

恥ずかしくてこれ以上追求されたくなかったヒューバートでした。


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