優し過ぎて怖くなる。(ゼロスとコレット)
(優しいのは、怖い)
(上っ面だけ取り繕うのが上手い自分が、いとも簡単に崩れていってしまいそうで)
「ゼロスー!」
束の間の休憩時間。
各々が自由に過ごす中、ゼロスは仲間達と離れて、一人木の上で寝転んでいた。緩やかな風に吹かれながらボーッとしていると、可愛らしい声が一つ。
声のした方を見れば、お人形さんのように愛らしい少女が一人、ゼロスが居る木を見上げていた。
「どしたー?コレットちゃん」
「んとね、急にゼロスの姿が見えなくなっちゃったから探しに来たんだよ」
「おお、そかそか〜。可愛いコレットちゃんに探して貰えるなんて、俺さまってば幸せ者だなあ」
「えへへ、ありがと」
ニコニコ、ニコニコ。
そんな擬音が聞こえてきそうな笑顔。自分はそんな純粋な笑顔なんて、とうの昔にどこかへ置いてきたなあなんて思う。神子として生まれた者の末路──世界の真実を知ってもなお、歪まない彼女には尊敬の念すら抱く。そして同時に思うは、自分には決して真似は出来ないということ。
「‥何か、あった?」
その言葉にハッとして下を見ると、笑顔を曇らせた少女が一人。俺様としたことが、女の子の顔を曇らせちまうとは…なんて思いながらも「んーにゃ、別に?」と返す。
「…ん、そっか。変なこと聞いてごめんね」
「や、全然大丈夫だぜー?可愛い女の子に心配して貰えるなんて、男からすりゃ嬉しいモンよ。でもどうしていきなり?」
「……ちょっと、ね。急になんだか胸騒ぎがしたから。でもごめんね。私の勘違いだったみたいで」
「……」
ゼロスは無言になった。
そのままストン、と軽い音をたてて少女の近くに着地する。緩やかな風がゼロスの髪をなびかせ、少しだけ表情を隠してしまった。それに少しだけ、コレットは不安になる。
「俺さま、変な感じだった?」
「えっ、んと…変な感じかは分からないけど、でもちょっとだけ胸騒ぎがしたの」
「……」
「ゼロスがこのまま居なくなっちゃうんじゃないか、って。でも、こうしてちゃんと見付けられたから良かったの。私が安心したかっただけなんだろうけど…」
「…」
ゼロスは顔をゆっくりと上げる。少女は目を見開いた。一瞬、泣き出しそうな表情に見えたからだ。でもそれは直ぐに消えて、いつものヘラヘラした笑顔になる。…気のせい、だったのだろうか。胸にかかったモヤモヤは、一向に晴れない。
「ゼロスと私は…きっと似た者同士なんだと思う」
「…え」
予想外の言葉に、目を丸くする。どこをどう見たらそうなるのか。神子同士ということを除いては、自分とでは正反対も良いところで…とそのまま言葉を失うゼロスに、少女はそのまま続ける。
「私も、ね。ホントは辛かったりする時、一人で抱え込んじゃう悪いクセがあるんだってロイドに言われて気付いたの。でもそれじゃあダメなんだって、もっと心配を掛けちゃうんだなって。それを見ている人は、言ってくれれば良いのにってもっと苦しむんだって、気付いたんだ」
「コレットちゃん…」
「だから、ゼロス。もしそういうことがあったら、一人で抱え込んだりしたらダメだよ?私もみんなもゼロスが大好きだから、一人で悩んでたら苦しくなるもの」
「…」
「……だいじょぶだからね」
コレットは自分でも、何が大丈夫なのかと思った。でも今また一瞬だけ見えた青年の不安そうな表情を見たら、自然に口からその言葉が零れて。
「ね、だいじょぶだよ」
そして青年は、正直この少女に自分の何が分かるのだろうと思った。でも、この少女は分からないなりに自分の心情を無意識のうちに読み取った。そして闇に埋もれた自分を、まるで月の光のように一筋の光を与えて見付けてくれたのだ。
無条件に与えられる優しさは、怖いもの。でもそれは心のどこかで自分が欲していたもので。刺々しい気持ちも、人を疑う汚い感情も、全てを包んで許してくれている気がした。
ふう…と一つ息を吐く。
「──コレットちゃんは、優しいなあ」
「ゼロス?」
「俺さま、骨抜きになっちゃうわ」
「…骨抜き?」
キョトンとする少女に、緩く笑う。嗚呼、そんな無垢な表情を歪ませたくはないなあ、と思う。
「メロメロになっちゃう、ってこと!さ、そろそろ戻ろうぜ〜。長い時間コレットちゃんの姿が見えなきゃ、ロイドくん達も心配しそうだしな」
そういって仲間達の元へ歩き出すゼロスに何故かいてもたってもいられず、コレットは声を掛けた。
「私だけじゃないよ。ゼロスが居なくなっても、みんな心配するよ」
驚いて目を見開きこちらに振り向く青年に、少女は柔らかく笑った。
「だから、急に居なくなったらダメだよ!声を掛けてからだったら、みんな安心するから!」
全く、この少女には勝てそうもないなあ、と。異世界の神子は実に情けない顔で笑った。
嗚呼、なんと貴女は美しい。
(こんな俺に対しても汚れなく降り注いで)
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不安定なゼロスに感付いて、必死に手を伸ばすコレット。
神子んびは大好きなのに、思った以上に難産でした。
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