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泣き方なんて知りません(ルークとジェイド)



「なあ。ジェイドって泣いたことあるのか」


暫く黙り込んでいたかと思えば、この赤い髪を持った子供はとても真剣な顔をしてそんなことを問う。何故突然そんなことを言い出すのか…と顎に手を添えて考える素振り。そのままチラリとルークを見れば、真剣な表情のままで。もしや何か余計な心配を掛けさせているのだろうか(そういう行為は無駄に気力を消費するというのに)。



「突然どうしたんです?」

「あ、いや…なんとなく気になってさ。ジェイドってあんまり泣かなそうだし」

「おやおや。私が大声を上げてわあわあ泣いているのは、キャラに合わないと思いますがねえ」

「まあ確かに…って茶化すなよ!」


そういうことが言いたいんじゃないんだ。そう言いたげに子供はぶすりと頬を膨らませる。その拗ねたような表情は、久しく見ていなかった気がした。髪を切る前は素直過ぎるぐらい自分の感情が表に出ていたのに(否、私達が変わることを強いたのか)。なんとなく言いたいことが理解出来た気がして、ジェイドは目を細める。



「ルーク、普段使わない頭を使うと熱を出しますよ」

「真顔で言うなっ!」

「ははは」



どうやら怒らせてしまったようだ(まあ、狙ってのことだったけれど)。未だにぶつぶつと何やら言い続ける子供に笑って、もう一度名前を呼んだ。随分と寄り道をしたが、先程の問いに答えようと思ったのだ。



「…泣いてもどうしようもないでしょう。意味がない。問題は解決しませんから」



それはそれは、いかにも現実主義のジェイドらしい言葉だった。だけどとても寂しくて悲しい響きを持った言葉で。ルークは思わず苦笑する。



「…俺は、さ。意味がないなんて思わないよ。たくさん泣くとすっきりするんだ」



『泣いてもどうにもならない現実』を、今この瞬間にすら一番感じている子供が、何を言っているのか。とうの昔にルークは、悲しそうに笑うだけで泣けなくなってしまったというのに(寧ろ泣き喚けば良いのにと思うのは、ルークのほうである筈なのに)



「貴方がそれを言いますか」

「はは」



嗚呼、また。
いつからそんな悲しげな笑顔を浮かべるようになったのだろうか。チクリと、胸の辺りが痛む。



「…私は小さい頃から、気持ちや感情に疎かったんです。悲しみも、よく分からなかった。今だって理解しているか分からない」



そう。
あの忌まわしい出来事でさえ、涙を流すことが出来なかった。人間として本来ある筈の何かが、自分は欠落しているのだ。それに対して、悲観的に考えたことはないけれど。



「でも、ここら辺が "苦しかった"だろ?」



トントン、とルークが手を自分の胸を叩く。その場所は、つい先程ジェイドがチクリと痛みを感じた場所だった。それにはジェイドも目を見張る。自分はこの子供に悲しみを抱いていたのか。



「それが悲しいってことなんじゃねえかな」

「…」

「だから、ジェイドは悲しく感じてなかった訳じゃない。でも泣かなかったのは、無意識に我慢してたんじゃないか」

「それは、恐らく違います」



泣き方を知らないだけだと、続けようとした言葉が出て来なかった。今自分はどんな表情をしているんだろう。一瞬、驚くように目を見開いたルークは、また笑う。



「俺、生まれてきて本当に良かった。ジェイドが居なかったら、俺は今此処に居ないんだ」



明日消えてしまうと言うのに。
何故そんなことが言えるのか。



「だから、ありがとう」



目頭が熱い。
何かが自分の頬に流れていることに、ジェイドは気付けなかった。




私だって泣きますよ
(表情に出さないだけ、で)




(title:自慰様)


あきゅろす。
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