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誰のせいでもないよ(幼少ゼロスとミトス)
※傷口に塩を塗るような話
※優しいミトスが好きな方は注意




「ねえ、君はどうして泣いているの?」




深夜にこっそりと屋敷を抜け出し、訪れた教会。今夜はやけに空気が澄んでいて、普段は霞んでしまうほど小さな光の星達が輝きを増していた。鮮やかな色のステンドグラスから、月明かりが差し込むその場所で、赤い髪の少年は一人隠れるように蹲っていた。



震える肩も、時々小さく漏れる嗚咽も。淡く少年の姿を照らす月だけが知っているはずだった。しかし、突然静寂は破られた。一見優しそうな──しかし実際には熱が感じられない、冷たい響きを持ったその声に、肩をびくつかせる。恐る恐る振り向けば、誰も居なかった筈の教会の入り口に一人の少年が立っていた。




「───っ、」




濡れた瞳を隠すのも忘れて思わず、目を見開く。何故なら、少年が幼い頃から読んで貰っていた絵本の中に出て来る『天使さま』と、姿が酷似しているように思えたからだ。それほどまでに、綺麗な容姿をしていた。そのことに対して少年──ゼロスは恐怖を覚えた。自分はこんなにも悪い子なのだ。だからきっと天使さまが罰を与える為に迎えにきてしまったのだ、と。




「て、んし、さま…?」

「君がそう思うなら、ボクは否定しないよ」

「…あ…ご、ごめ、なさ…」

「……君、名前は?」

「…ゼロス…」




その怯えきった表情に目を細めて、ミトスは少年を見つめる。それ以上は泣かないよう必死に堪える姿に、たまらなく苛ついた。




「ねえ、質問に答えて。君はどうして泣いているの?」

「……あ…。僕の、母上が…父上も、セレスも…セレスの母上も、僕が居たから……」

「……」

「だからどうして、僕は生まれたんだろう、って。そればっかり、かんがえて、て……」



神子。
生まれながらにその身をクルシスに捧げる哀れな子。今にも泣き出しそうに、途切れ途切れに喋るその子は、その小さな身体に似つかわしくない程の自己嫌悪を抱え込んで苦しんでいる。




(──馬鹿馬鹿しい、)




嗚呼、自分は歪んでしまっているのか。こんなにも純粋な涙を流す少年を跡形もなく壊してしまいたいだなんて。姉様をなんとかして復活させたい。姉様が望む理想の世界を作り上げたい。それの為に進んでいる筈なのに、何故こんなにも逸れてしまったのか。何故長い間実現出来ないのか。本当は気付きかけていることにそっと蓋をして目を逸らす。




(何を馬鹿なことを…)




しょせん『神子』は目的を遂行する為の駒なのだ。それは生まれながらに決定されていること。それなのに苦しいと、こちらに助けを求めようという──愚かなものだ。今だにびくびくしながらこちらを見ている神子に、ふわりと柔らかく笑う。それはそう、絵本の中の『天使さま』のように。




「そっか…誰かのせいに出来たなら、楽なのにね」

「…え、」

「でも誰のせいでもない。君が一番よく知ってるよね」

「っ、」

「君が泣いても誰も助けてはくれないよ」



ね?
そういって微笑んだ少年を、神子の少年は顔を青くしたまま呆然と見つめていた。




君が全部悪いんだから誰のせいでもないよ。





(反転コンタクト様)


あきゅろす。
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