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生きていてくれて、良かった(ゼロしい)





「なあ。お前が生まれてきた意味って、何」

「──なんだい、いきなり」



ポツリ。
消えそうな声で呟いた言葉だった。届いていないと思っていたのに、隣に居たしいなはそれを拾ってこちらに返してきた。それだけでゼロスは、なんだか泣きそうになる。



「しいな」

「ちゃんと此処に居るよ」




ゼロスは、時々とても脆くなってしまうことがあった。不安で仕方がなくなる。様々な感情に、溺れそうになってしまう。それは付き合いの長いしいなにすら、最近になってから見せるようになった一面だった。不安そうに揺らいだ瞳に、黒髪の少女が映る。そしてそっと目を反らして、どこか遠くを見た。そのままどこかに行ってしまいそうなゼロスをつなぎ止めておきたくて、意味は無いと分かっていながらしいなはグッと強く手を握る。力を入れ過ぎて、隣から「しいな、痛い」と声が掛かった。それに対して「もうちょっと我慢しな」と返したが、今手を離す気は更々無かった。

繋いだ手はひんやりとして、冷たかった。



「なあ。なんで人間ってのは生まれてくるんだろうな」

「…そりゃあ……、何かしら意味があって生まれてくるんだよ。あたしにも、アンタにも。ちゃんと意味はあるんだ」




正直なところ、何が正解なのかは分からない。でもこれだけは、絶対にそうだと自信を持って言える。意味があって人は生まれてくるのだと。





「──俺さまに、意味?」




その言葉にハッ、とゼロスが笑う。しいなはその表情が好きでは無かった。自分自身を嘲笑って、傷付けるようなそれ。そんな表情、見たくないのに。




「俺さまが居たからセレスが傷付いたのに、か?」

「っ、ゼロス!!」




つい怒鳴ったような声になる。
そういうことを言うなって何回言えば分かるんだい!としいなは続けた。それに悪いと苦笑して、ゼロスは眉を下げる。そして不安なんだ、と肩をすくめて素直に告げた彼には、もう怒れなくなってしまった。

しいなは仕方がないな、と言うようにため息をついてから、続ける。



「──昔、確かに否定されたのかもしれない。…でもサ、アンタが生まれてなかったら、あたしはゼロスと逢えてなかったじゃないか。勿論ロイド達とも」

「……」

「あたしは、ゼロスに逢えて良かったよ」




(ゼロス、生まれてきてくれてありがとう。アンタは、あたし達に望まれて生まれてきたんだよ)





真っ直ぐに、青い目を見てそう告げれば、泣くのを我慢しているのかくしゃりと顔を歪めたゼロスの姿。直ぐに顔を背けたのは、きっとそんなところを見られたくないからで。つくづく意地っ張りな男だと思う(お互い様かもしれないけれど)。




「笑わないで、聞いとくれよ」

「…ん」

「……勘だけど、サ。あたしは、ゼロスに会うために生まれてきたんだと思う」




恥ずかしさで赤くなった頬を誤魔化すように、グッとゼロスの手を握った。恥ずかしいけど、でも。本当にそう思ったから。





「──泣けるセリフだな、」





珍しく茶化さなかったその言葉が、震えていたのには気付かないふりをして。



「泣けばいいよ」

「じゃあ、胸貸して」

「……アホ」




そう言いながらも、ゼロスの頭をこちら側に抱き寄せた。少し変な方向に曲げてしまったのか、また「痛い」と声がする。でも弱々しくも腕を回して抱きついてきたので、小さな子供にするように背中をポンポンと叩いてあげた。時折聞こえる鼻を啜る音は、聞こえないフリで。




人は一人じゃ生きていけないらしいから(生まれてきました、君と生きるために)




じゃあ、俺はしいなと逢うために生まれてきたんだな。




(反転コンタクト様)


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ゼロスはお母さんの命日とか、自分の誕生日が近くなると不安定になりそうだ。


あきゅろす。
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